第40回全農酪農経営体験発表会
優れた酪農経営者を表彰
2023.02
地域のモデルとなる酪農経営者を表彰する「全農酪農経営体験発表会」。40回目の記念大会となった今回は、全国の6戸の酪農家が経営や酪農への思い、夢などを発表。最優秀賞には、北海道別海町の浦部雄一さんが輝いた。
第40回全農酪農経営体験発表会が2022年11月25日、東京都内で3年ぶりに実開催された。酪農経営の安定と発展に向け、優良事例を広く共有するのが狙い。飼料高で厳しい情勢下でも奮闘する農家の経営努力に、会場からは惜しみない称賛の拍手が送られた。
開会にあたり、JA全農の齊藤良樹常務理事は、酪農情勢に危機感を示し、JAグループとして自給飼料の利用拡大などに取り組む姿勢を強調。需給改善に向け、「処理不可能乳の発生回避や脱脂粉乳の過剰在庫の解消などを進め、消費者への理解醸成と更なる消費拡大に業界一体で取り組んでいきたい」と訴えた。
放牧で粗飼料自給も乳量・乳質上々
今回最優秀賞を受賞した浦部さん(発表代読:JA道東あさひ・高橋裕人さん)は、130頭規模の経産牛を家族と外国人実習生2人で飼養する。日中の放牧で粗飼料のコストと給餌の手間を省きつつ、年間個体乳量が9000kgを超え、乳質も高い点が評価された。外国人実習生の教育にも力を入れており、今では実習生に搾乳を任せて月に数日は趣味や家族との時間を確保できている。審査員からは「資材高でも持続可能な経営と、農村生活を楽しむ経営者の姿は理想的」と満場一致で最優秀賞に選ばれた。浦部さんは「今回はこのような賞を受賞でき、嬉しく思います。父の代から続けてきた放牧での飼養管理が評価されて大変光栄です。今後も牛に無理をさせず、長命連産を目指す経営方針は変えずに日々邁進していきたいと思います」と喜びを語った。
地域のモデルへ酪農の多様性を評価
優秀賞には、住宅密集地の牧場で住民と共存しつつ、牧場の動物を保育園などに連れていく「移動動物園」を経営に取り込む福田努さん(神奈川県)、牛のストレスを軽減する係留方法を取り入れた施設で高品質な生乳を生産し、受精卵移植(ET)用の和牛受精卵を自家採卵する石原玄明(はるあき)さん(群馬県)、東日本大震災による被災から牧場を復興し、木材由来の高消化性セルロース飼料や先進機器の導入を進める佐久間哲次さん(福島県)、飲食や耕種部門を設け、働く時間が限られる子育て世代の女性も働きやすい環境を作る広野豊さん(香川県)、地域で作ったコーンサイレージを使ったTMRを取り入れて購入飼料を削減し、家族経営で収益性の高い酪農を進める桐原将文さん(熊本県)を選んだ。特別賞として、福田さんに審査員特別賞が贈られた。
未来の酪農家が夢を語る全農学生「酪農の夢」コンクール
第16回全農学生「酪農の夢」コンクールも同時開催され、応募総数102作品から最優秀賞、優秀賞の計4作品を表彰した。最優秀賞には栃木県農業大学校の長谷川豪輝さんの「目指すは『楽農』経営」を選定した。優秀賞は帯広畜産大学の蛭田あやのさん、中国四国酪農大学校の財部香奈愛さん、岩手県立盛岡農業高校の藤田遥翔さんに贈られた。表彰後に行われた酪農家・学生・指導教員による座談会では、飼料が高騰する中での経営努力や農場での人材確保の手法といった現場の課題について意見を交わした。
第40回記念企画として、第32回大会の発表者、柴田瑞穂さん(秋田県)と知久久利子さん(千葉県)が地域と歩む酪農について特別講演を行った。また会場入口には、発表した各農場の歩みを紹介する写真や、北海道の阿寒・釧路地域の酪農女性グループBecottoによる「釧路で生きる酪農女性写真展」の写真と川柳が展示され、節目の大会に花を添えた。
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