北海道斜里町 佐々木種畜牧場
麦主体の飼料と快適な豚房が決め手!味の良さで愛される豚肉を生産

2024.04

有限会社佐々木種畜牧場
社長:佐々木 隆さん
住所:北海道斜里町字美咲69
生産部従業員数:5人
飼養頭数:3500頭(うち母豚270頭)
年間出荷頭数:6000頭
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ふかふかの麦わら大好き

 北海道の東端、オホーツク海に面し、世界遺産知床の雄大な自然で知られる斜里町に、餌と飼育環境にこだわった高品質の豚を育て、地域に愛される牧場がある。町内唯一の養豚農家の佐々木種畜牧場だ。餌は、麦類を30%配合した独自の飼料をJAしれとこ斜里・ホクレン・ホクレンくみあい飼料株式会社と協力して開発。肥育豚舎の豚房は、高さ30cmまで麦わらを敷き詰め、1頭当たりの空間も広く確保する。手塩にかけた豚は「サチク麦王」の名でブランド化。脂肪と肉の質の良さで幅広い世代に人気を得て、直営する精肉店と焼肉店には町内外からリピーターが訪れる。

効率のために味を妥協することはしない

 オホーツク地域の玄関口の女満別空港から車で約50分。牧場に着いてまず気付くのが、豚舎の臭いがまったくしないことだ。

 「きれい好きな豚にストレスを与えないため、寝床とする麦わらは、週に1回交換して、豚舎も消毒しています」と話すのは、飼養管理を担う専務の佐々木勉さん(59)。清潔に保たれた豚房は1頭当たり1.8m2と通常の2倍で余裕がある。ふかふかの麦わらのベッドの中を駆け回る豚は表情も明るく感じられる。

 快適な飼育環境が高品質な豚を育てる。上物率はコンスタントに70%を超え、80%に達することもある。場長を務める従業員の岩崎則昭さん(48)は「手間はかかるが、週2回の出荷で上物率が高いとやりがいを感じる」と笑顔を見せる。豚は全量を、JAしれとこ斜里を通じてホクレンに出荷する。

佐々木 信男会長
知床しゃりブランドの一つに選定された「サチク麦王」

地元を代表するブランドとして定着

 佐々木種畜牧場は、現会長の佐々木信男さん(91)が、1960年に創業した。今は長男の隆さん(61)が社長、次男の勉さんが専務を務める。

「豚2頭から始め、がむしゃらにやってきた」と振り返る信男会長。70年から種豚の生産を中心とした経営を始めた。

 先輩養豚農家から学び、JAの指導を受けて飼養技術を磨いた。80年から5年連続で北海道種豚共進会のチャンピオン、84年に全日本種豚共進会で銅賞を獲得。87年にはホクレン指定種豚農場に認定された。

 ホクレンが種豚の供給を始めると、2011年からは、種豚をホクレンから仕入れ、肉豚の販売に専念。種豚生産で培った高い飼養技術を生かし、味の良さにこだわった高品質な豚を育てる体制を確立した。味の決め手は、麦を主体にした専用飼料だ。信男会長は「特に、脂肪が白く、柔らかく、甘くなる」と利点を解説する。

佐々木 隆社長
「地元に愛されるブランドを目指しています」

 2000年に「サチク赤豚」の名でブランド化に乗り出した。その後もJA・ホクレン・ホクレンくみあい飼料と飼料の改良を重ね、麦類30%の割合にたどり着いた。飼料の完成を受けて新ブランド「サチク麦王」を立ち上げ、14年に商標を登録。道内のスーパーや精肉店の他、斜里町のふるさと納税の返礼品などに販路を広げ、地元では贈答品の定番となっている。

 ホクレン北見支所畜産生産課の成田広之係長は「これだけ麦を多く与える牧場は他にない」と話す。ただ、麦主体の飼料は増体に時間がかかるデメリットもある。広い豚房で豚がよく動くこともあり、出荷日数は平均190日と、一般的な農場と比べて長い。また、寝床とする麦わらの交換は手作業のため人手もかかる。

 それでも、やり方は変えない。信男会長は「お客さんにおいしい豚肉を食べてもらいたい。効率のために味を妥協することはしない」と言い切る。

佐々木 勉専務
「ストレスを与えない環境を大切にしています」

 ブランド戦略では、地元での評価を高めることを重視する。大きな役割を果たしているのが、直営する精肉直売店と焼肉店だ。牧場に併設する精肉直売店は1987年に開店。ホクレンから1頭ごとに肉を買い戻して販売する。オーダーカットにも対応し、リピーターを獲得。町の中心部から離れた立地にもかかわらず、1日約40人が訪れる。

 焼肉店「豚匠(とんしょう) SACHIKU」は、町の中心部のJR知床斜里駅近くで営業。薄切りのロースをさっと焼いて食べる「焼きしゃぶ」や、横隔膜周辺の「豚サガリ」などの希少部位を含む焼肉の他、「ポークグラタン」「ローストポークピザ」などの豚肉料理で、「サチク麦王」の食べ方を提案する。

 来店客には、子どもにせがまれて来る家族が多いという。運営を担う隆社長は「子どもは味に正直なので『おいしい』と言ってもらえると自信になる」と手ごたえを話す。

麦を主体とした飼料
清潔さが保たれる豚舎
たっぷりと麦わらが敷かれた豚房

多角経営の挑戦支える JA・ホクレン・ホクレンくみあい飼料との協力体制

JA泉調査役(右)、ホクレン成田係長(中央右)と勉専務(左)、岩崎場長

 地域に密着した循環型農業の実践へ、近隣農家との耕畜連携にも取り組む。自家製の豚ぷん堆肥を提供し、寝床に使う年間300ha分の麦わらと交換。堆肥は敷地内に備えた約1300m2の堆肥舎で、豚ぷんと麦わらを混ぜ、切り返しながら2年間発酵させて作る。

 JAしれとこ斜里農畜産課の泉寧典調査役は「地域は麦やジャガイモなどの畑作が盛ん。良質な堆肥を提供する同牧場は近隣の農家にとっても重要な存在」と評価する。

 こだわりの飼育体制や多角経営への挑戦を支えるのが60年以上かけて築いてきたJAやホクレンとの協力体制だ。

 信男会長は「種豚生産時代には、市場で高額な豚を買って資金繰りに苦しんだこともあった。未経験で精肉店や焼肉店を始めた時は、分からないことばかりだった。続けられたのは、JAとホクレン、ホクレンくみあい飼料のおかげだ」と振り返る。「良い時も悪い時も変わらず支えてくれる。他の業者に目移りすることなく、系統一本で迷わなかったことが今につながっている」と信頼を寄せる。

 目下の課題は、年間通して安定した増体。夏場の増体を改善するため、2023年には豚舎の暑熱対策に換気設備を整えた。勉専務は「厳しい畜産情勢だが、これからもJA・ホクレンと変わらぬ協力体制で、おいしい『サチク麦王』の生産を維持していきたい」と展望する。

脂肪が柔らかく、甘いと評判の「サチク麦王」

精肉直売店

住所:北海道斜里町字美咲69
TEL:0152-23-0429
営業時間:8:30〜18:00
定休日:月曜日

豚匠SACHIKU

住所:北海道斜里町本町37-1
TEL:0152-23-2985
営業時間:17:00〜22:00
定休日:月曜日

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