青森県三沢市東北ファーム
鳥インフルエンザの脅威を教訓に 全国初の「農場の分割管理」で先進的経営

2024.10

有限会社東北ファーム(touhoku farm)
代表取締役社長:山本 彌一さん
本社:青森県三沢市大字三沢字庭構54-45
従業員数:150人
飼養羽数:117万羽(2024年)
生産量:約1800t/月
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 青森県最大規模の採卵養鶏場である三沢市の有限会社東北ファーム。国内で高病原性鳥インフルエンザ(以下、鳥インフルエンザ)が猛威を振るった2022年に、同社も農場の全139万羽を殺処分する創業以来の危機に襲われた。それでも、ショックに沈むことなく「ピンチの裏にチャンスあり」と懸命に供給を続けた。教訓を生かし、衛生対策では全国初の「農場の分割管理」を導入し、今後の危機に備える。自社ブランド卵「味乙女(あじおとめ)」を使ったスイーツなどの加工品販売事業も軌道に乗せ、今年度の売り上げは、鳥インフルエンザ発生前と同程度までV字回復の見込みだ。

農場の東側に太平洋が見える
鳥インフルエンザからの復活を一緒に学ぼう!

創業以来の大ピンチ 仕入れ販売事業が奏功

 青森県南東部に位置し、東に太平洋を望む三沢市。冬は、北国としては降雪が少ない地域だ。2022年12月、(有)東北ファーム第4農場の鶏舎の鶏の死亡原因が、鳥インフルエンザだと判明したのも、雪のない寒い日だった。1966年の創業から時代の荒波を乗り越えてきた同社も初めて迎えた事態。経営陣らが集まった会議室で、社長の山本彌一さん(81)は「今、何ができるかを考えよう」と呼びかけた。

 彌一さんの長男で、飼養管理を担当する専務の山本高久さん(52)は「感染対策は万全を期していた。それだけにショックは大きかった」と当時を振り返る。同社は4農場全てでウインドウレス鶏舎を導入して野鳥などの侵入を防ぎ、人の出入り時には消毒を徹底。20年にはJGAP(農業生産工程管理)の認証も受け、衛生管理体制を整えてきた。

「鳥インフルエンザ発生時は冷静な対応を心がけました」
山本 彌一社長

 殺処分が完了したのは、発生から16日後。1農場で139万羽の処分は国内では過去最多だった。

 一度途絶えた販路は簡単には戻らない。喫緊の課題は、取引先に卵を供給し続けることだった。幸いしたのが、「生産だけでは何かあった時に対処が難しい」と仕入れ販売事業を始めていたことだった。県内だけでなく、新潟県に開設した営業所もフル稼働させ、供給量を確保した。彌一さんは「事業の拡大へ、仕入れた卵の選別や品質管理などを見直すきっかけにもなった」と話す。

農場の分割管理で備え 新たな顧客獲得も

鶏舎外側に直接つけるトラック

 農場では、再発防止に向け新たな衛生管理方法を検討した。今後の対策として青森県十和田家畜保健衛生所から提案されたのが、農場の分割管理だった。

 分割管理は、農場を複数の衛生管理区域に分け、各区域を一つの農場とみなして設備や飼養管理者を独立させる管理方法だ。一つの区域で鳥インフルエンザなど特定家畜伝染病が発生しても、他の区域は殺処分を避けられ、卵を安定供給できるメリットがある。特に、人や物の出入りが多くなる大規模農場では、施設や飼養管理を区域ごとに完全に分けることでウイルスの侵入リスクを減らし、感染拡大を防ぐ効果が見込める。

 ただ、導入には相当の費用がかかる。区域ごとに消毒設備、更衣室、車両などを備える必要があり、区域ごとにフェンスも設置しなければならない。大きな経営判断を強いられたが、「予防には限界がある」と痛感した同社は分割管理の導入を決めた。

 当初はマニュアルなどがなく、飼養衛生管理基準と照らし合わせて家畜保健衛生所と相談しながら管理体制の構築を進めた。23年9月に農水省が「農場の分割管理に当たっての対応マニュアル」を策定。同社も独自にマニュアルを作り、国の助成も活用し、同11月から分割管理を始めた。同省のマニュアル策定後初の導入事例となった。彌一さんは「全国に先駆けて始めることで、他の農場の参考になれば良いという思いもあった」と話す。今では全国に広がったという。

飼養管理を担当
山本 高久専務
「分割管理の人員配置に苦労しました」
生産部 石橋 浩二部長

 同社は元々、鶏舎群ごとに卵の選別・包装施設(GPセンター)を分けていたため、3カ所のGPセンターごとに衛生管理区域を設定した。区域ごとに車両や消毒ゲート、機材、重機、服、長靴などを用意。ただ、機械部品や特殊機械の倉庫を全てに配置するのは難しいため、やむを得ず共同倉庫などから物品を持ち込む際は消毒を徹底する。従業員の休憩室や堆肥舎も区域ごとに配置し、共同利用を禁止した。飼養管理者は原則として同じ日に区域間の移動はしない。生産部の石橋浩二部長は「一番大変だったのは人の配置でした」と言う。全区域に専属の人員を配置できない中で、同日に区域間で人の移動をせずに管理できるよう細かな作業計画が求められた。

 効果は意外なところで表れた。全国初の分割管理により衛生管理への意識の高さが評価され、新たな顧客獲得につながった。飼養羽数は24年に117万羽まで回復。売り上げは、23年度に前年度の半分以下に落ち込んだが、24年度にほぼ回復した。彌一さんは「5年後には子会社なども含めて300万羽を目指したい」と意気込む。

卵の選別・包装施設(GPセンター)機械化で作業負担を軽減する

次世代リーダーを育成

 一層の規模拡大に向け、同社が重視するのが、人材の定着とブランド力の向上だ。

 人材は地元の若者を積極的に採用し、従業員150人のうち4割が30代以下と若い力が活躍する。JA全農くみあい飼料(株)の矢島拓也課長は「事務所がきれいで福利厚生も充実しており、地元で働きたい人にとって魅力的な存在だ」と話す。高久さんは「社員が楽しめる研修旅行やイベントを通じて会社に愛着を持ってもらい、次世代のリーダーに育ってほしい」と期待する。

 従業員の負担軽減のため、生産現場では集卵やパッキングの自動化を進める。負担の大きい作業を聞き取り、業界初の自動箱詰め機や段ボールを積み上げる作業専用の機械も開発した。彌一さんの次男でGPセンターを担当する常務の山本泰裕さん(50)は「将来の採用難と規模拡大に備え、少ない人員で生産できる体制が必要。今後は検査機械の精度を高めて検査員の作業量を減らしたい」と展望する。

目指すのは養鶏業界のパイオニア!
山本 泰裕常務
機械と人の手を使ってパッキングする
業界初の段ボールを積み上げる作業専用の機械を開発した
より良い生産・管理へ、議論を展開

左から、JA全農くみあい飼料(株)の矢島拓也課長、(有)東北ファームの泰裕さん、同品質管理部の高見澤弘明次長、同第三GPセンター工場長の新舘優太さん

黄身色鮮やかな「味乙女」スイーツ 「おいしい」と「しあわせ」を食卓へ

ブランド力を強化 消費者にアプローチ

口コミが広がり来店する人も!

 ブランドは「味乙女」の名で展開。中心となる卵「味乙女」は、鮮やかなオレンジ色の黄身が特徴だ。くせがなく、味の良い卵を目指してJA全農くみあい飼料(株)と試行錯誤を重ね、ビタミンD、Eなどを配合した植物性たんぱく限定の専用飼料などを開発した。地元のスーパーとのつながりを重視する戦略で、ブランドを根付かせた。


 知名度向上のため、イメージキャラクター「たまご妖精 あじおとめ」をつくり、テレビCM放映、配送用トラックのラッピング、グッズでPRする。17年に完成した総合GPセンターは、作業の全てを2階から一望できるようにし、近隣小学校から見学を受け入れる。自らキャラクターをデザインした泰裕さんは「良いものを作るだけでなく、付加価値を付けて商品の魅力を高めること、そして、いかに知ってもらうかが大事だ」と強調する。

 新たな事業の柱としてスイーツなどの加工品を開発。商品は三沢市と青森市の2店舗の直売店「AJIOTOME SHOP」で卵と共に直接販売。24年4月にJR青森駅の商業施設に新装開店した青森市のあおもり駅前店では、「味乙女」を使ったシュークリームやロールケーキなどでブランドをPR。1番人気のプレミアムカスタードシューは毎日完売するほどだ。

 青森市内から親子で来店した30代の男性は「評判を聞いて来た。初めて買えてうれしい」と笑顔を見せた。店長を務める販売課の竹本樹里主任は「シュークリームを買いに来た人が、卵を一緒に買っていくことも多い」と話す。

 「消費者が求めるものは日々変わっていく。常に新しいものをつくり、挑戦する、養鶏業界のパイオニアでありたい」と話す泰裕さん。一層のブランド力向上へ、次の一手を探り続ける。

もっちり生地の
「たまごロールケーキ」
ヒヨコがかわいい「パイコロネ」
イメージキャラクター
「たまご妖精 あじおとめ」を発見!
AJIOTOME SHOPあおもり駅前店
一番人気のプレミアムカスタードシュー。
コクのあるクリームが自慢!

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