冬場を迎えるにあたって
きれいな空気で子牛を健康に!寒い季節の換気の重要性を再確認しましょう!

2024.10

寒い季節には保温のために牛舎を閉め切ることもあると思います。しかし、閉め切った牛舎内には、肺炎など呼吸器疾患の原因となる、目には見えない微生物が大量に浮遊している可能性があります。今回は、家畜衛生研究所主導のもと2022年度から23年度にかけて笠間乳肉牛研究室の哺育牛舎で調査した、空中浮遊細菌濃度と呼吸器疾患との関係について紹介します。冬場の換気の重要性を再認識しましょう。

笠間乳肉牛研究室

はじめに

 今年もまた寒い季節がやってきます。冬になると、牛舎の扉やカーテンを閉め切って保温する生産者もいると思います。実際に笠間乳肉牛研究室でも、冬場は気温が氷点下まで下がることが多いので、凍結防止と保温のため、夜間は一部の牛舎を閉め切って対応しています。

 しかし、ずっと閉め切ったままの牛舎内の空気の状態はどうなるでしょうか? またその空気を吸って過ごす牛たちへの影響はどうでしょうか?

 その疑問に答えるため、笠間乳肉牛研究室の哺育牛舎にて、牛舎内の空気をサンプリングし、空中に浮遊する細菌の濃度を調査する試験を実施しました。この試験は、本誌の連載記事「Dr.ジーアのMyカルテ」でおなじみの、JA全農家畜衛生研究所が主導して行いました。

空中浮遊細菌濃度の調査試験を実施

 今回の試験は、笠間乳肉牛研究室の哺育牛舎のうち、哺乳中の子牛をカーフハッチで個別飼養する牛舎1カ所(A舎)と、離乳後の子牛を群で飼養する牛舎2カ所(B舎、C舎)の計3牛舎にて、2022年10月から23年8月まで毎月行いました。

 調査項目として、牛舎を閉め切った状態の午前と牛舎を開放した状態の午後の1日2回、各牛舎内の複数地点から「エアーサンプラー(写真1)」を用いて空気をサンプリングし、それを培地で48時間培養して空中浮遊細菌濃度を測定しました。

 また、測定月の各牛舎の発熱や呼吸器疾患による治療頭数を記録しました。

写真1 使用したエアーサンプラー(ビオメリュー・ジャパン「AIR IDEAL® 3P®」)

牛舎開放前後で空中浮遊細菌濃度の違いが判明

 図1には各牛舎での午前と午後の空中浮遊細菌濃度の測定結果を示しています。いずれの牛舎も、閉め切った状態の午前において空中浮遊細菌濃度が高く、それだけ多くの微生物が空気中を漂っていたことが分かります。

 一方、牛舎を開放し換気した午後には、空中浮遊細菌濃度が午前に比べて減少しました。牛舎ごとの換気効率の違いにより減少量に差はありましたが、いずれの牛舎でも換気によって空気中に浮遊する細菌を減らせることが示されました。

空中浮遊細菌濃度と疾病治療頭数に正の相関

 次に牛舎の空中浮遊細菌濃度と、調査した月における発熱や呼吸器症状による延べ治療頭数との関係について測定しました。

 その結果、哺乳中の若齢子牛が飼養されているA舎では、空中浮遊細菌濃度と治療頭数に正の相関が見られました(図2)。

 このことは、空中浮遊細菌濃度が増加するにつれて、若齢子牛の呼吸器疾患が増え治療頭数が増加する、ということを表しています。実際に、牛舎内で特に空中浮遊細菌濃度が高い地点では、子牛鼻汁からの呼吸器疾患原因菌の検出率が高くなる傾向が見られ、空中浮遊細菌濃度は呼吸器疾患の陽性率と関連があると考えられました。

まとめ

ポイント 寒い季節も適切に換気し、きれいな空気で子牛を健康に!

 呼吸器疾患は子牛の病傷事故の約半分を占めるとされ、罹患(りかん)すると発育に長期的な悪影響を及ぼすだけでなく、治療にかかるコストや作業負担も増大し、経済的な損失が大きくなることはご承知のとおりです。

 今回の調査試験により、牛舎を閉め切った状態では、空中浮遊細菌濃度が増加することが分かりました。また特に若齢子牛では、空中浮遊細菌濃度の増加が疾病治療頭数の増加に直結することも示されました。一方で、牛舎を開放して適切に換気することで、空中浮遊細菌濃度を大幅に低下させることができました。

 これからの季節、人も牛も寒いから⋯⋯とずっと牛舎を閉め切った状態にしていませんか? 比較的暖かい日中は牛舎を開放する、あるいは牛に直接冷風が当たらないように牛舎上部のカーテンのみ常時開けておく、といった工夫をしてみてください(写真2)。適切に換気を行うことで、牛舎内に浮遊する“見えない敵”を追い出し、寒い季節も牛が元気に過ごせる環境づくりを心掛けましょう!

写真2 牛舎の開放例

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