Dr.ジーアのMyカルテ JA全農 家畜衛生研究所
代謝プロファイルテストで黒毛和種繁殖農場の成績アップ!
2025.01
2022年の人工授精の平均受胎率は、肉用種で52.5%です(一般社団法人日本家畜人工授精師協会調べ)。皆さんの農場ではいかがでしょうか。種止まりが悪いとお悩みではありませんか?健康そうに見えても、実は母牛が栄養不良で受胎しづらくなっていることがあります。そんな時、代謝プロファイルテストが解決の糸口になります。今回は、改善事例を合わせて紹介します。
1 代謝プロファイルテスト(MPT)とは
牛群の栄養状態を評価するための手法です。MPTにより、母牛が飼料から得る栄養と、生きるためや子牛を産むために使う栄養のアンバランスを捉え、栄養状態を整えることにより群全体の生産成績改善を目指します。個体診断ではありませんが、結果として空胎牛では発情が明瞭となって受胎しやすくなり、妊娠牛では流産・早産や虚弱子牛が減り、自然哺乳では子牛の下痢が見られなくなるなどの効果が得られます。
2 MPTの検査から改善策提案までの流れ
MPT希望の連絡を受けたらスタートです。
- 農場の状況(飼養頭数、母子分離日齢、繁殖成績、飼料給与メニューなど)を聞き取ります。
- 農場を訪問し、母牛の栄養度を調べます。健康な個体15~20頭をランダムに選んで検査します。血液検査ではエネルギー、タンパク質、脂質の代謝、肝機能などの状態を評価します。
- これらの結果から問題点を見つけ出し、改善策を提案します。
3 MPTを活用した事例
母牛を約60頭飼養する農場の事例です。2~3頭の母牛を1マスで管理しています。結果の一部をご紹介します。
図1は総コレステロール(T-cho)の結果です。分娩後50~60日目にT-cho値が低い個体がいました(図1、緑の丸)。コレステロールにはいろいろな役割があります。その一つとして大事なのが繁殖に必要なホルモンの材料になるということです。よってT-cho値が低い個体ではホルモンが十分に作られず、その結果、排卵が遅れたり、明瞭な発情が見られなくなったりします。
T-cho値が低くなる原因の一つは乾物摂取量の不足です。図1を見ると、T-cho値が低い個体がいる一方、分娩後70〜90日目に高めの個体もいます(赤の丸)。個体間で食べる餌の量に差がありそうです。群飼なので強い牛は食べ過ぎ、弱い牛は恐らく食べ足りないのでしょう。弱い牛は受胎しづらそうですが、実は食べ過ぎの牛も受胎しづらくなります。
図2を見てください。これは図1と同じ牛たちの尿素窒素(BUN)の結果です。T-cho値が高かった2頭はBUN値も高くなっています(図2、赤の丸)。BUNは肝臓でアンモニアからつくられます。アンモニアは体にとって毒です。BUNは無毒ですが、「BUN値が高い」ということは「体内にアンモニアがたくさんある」ということです。毒がたくさんあると受胎しにくくなります。
BUN値が高くなる原因の一つはタンパク質の取り過ぎです。図2の赤丸で囲んだ2頭は同居牛を押しのけて餌を食べ過ぎていると考えられます。このような牛ではたくさんのアンモニアをBUNにするため、肝臓に余計な負担がかかります。実際にこの2頭は肝機能も低下していました。
さて、結果が出たので対策を検討します。平等に餌を食べられるようスタンチョンを設置したかったのですが、すぐには無理でした。JA全農くみあい飼料㈱の担当者が給与飼料の充足率を計算したところ、乾物がやや不足、タンパク質がやや過剰との評価が得られ、図1や図2の結果と一致していると考えられました。そこで充足率の過不足がなくなるよう担当者に給与メニューの変更を提案してもらいました。
結果 受胎率が大幅アップ!!
表1は変更前後の繁殖成績です。変更前の受胎率は44%でしたが、変更後は73%に上昇し、平均空胎日数は22日短くなりました。受胎までの平均授精回数は2.3回から1.4回となり、一発で受胎する母牛が増えました(図3)。ちなみに人工授精師は同一人物です。また、誰にでも分かるはっきりとした発情がくるようになりました。変更後の血液検査ではBUN値が基準値をオーバーする個体がいなくなり、肝機能低下を示す母牛もガクッと減りました。
4 最後に
上記はとてもうまくいった事例です。一方で、さまざまな事情により対策を実施できず、速やかに改善できないケースもあります。しかし、MPTを実施した多くの農場で改善のきっかけになるデータが得られています。MPTにご興味をお持ちいただけたら、管轄のJA・経済連・くみあい飼料・県本部にご相談ください。
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