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1頭でも多くの子豚を救いたい! 多産系母豚の死産対策
2025.01
母豚の多産化が進む中で、死産率の増加や、出生時体重が低く活力の少ない子豚の増加が課題となっています。死産や出生直後の虚弱死を減らすために、分娩中および分娩前の対策がより重要となります。今回は、中研のファームで行っている分娩中の対応や、分娩前から行う死産対策に関する知見をまとめました。
養豚研究室
分娩中の死産対策(難産の対処)
1)難産について
難産とは、人為的に介助しなければ分娩が困難あるいは不可能な状態をいいます。難産は死産増加につながり、また分娩時間の延長、ひいては母豚の体力消耗につながります。生まれる子豚も、長時間子宮内で圧迫されることにより血液・酸素の供給が不足し、その後の成長が停滞するリスクが高くなります。
難産と判断する基準は農場により異なると思いますが、子豚が生まれてから1時間以上次の子豚が生まれない場合、難産と判断する場合が多いようです。なお、子豚の分娩間隔は一般に5分から30分の間といわれています。
難産の原因はさまざまで、陣痛微弱、すなわち子宮が十分に収縮しないせいで胎仔を押し出せない場合、胎仔の大きさや向きによって産道の途中で引っかかっている場合、骨盤が狭すぎたり産道がねじれたりして胎仔がつまっている場合などがあります。状況によって対処の方法が異なるため、母豚の様子や分娩経過からどの方法で介助するかを検討します。
2)難産時の対応
陣痛微弱の場合、対処法として腹部のマッサージ、搾乳、オキシトシン製剤の投与があります。腹部のマッサージや搾乳はオキシトシンの分泌を促し、子宮の収縮を促進します。
母豚がいきんでいる様子があるにもかかわらず子豚が生まれてこない場合は、胎仔が産道の途中でつまっている・引っかかっている可能性が高いです。この場合にオキシトシン製剤を投与しても、産道内で余計に胎仔がつまるだけでかえって死産のリスクを高めてしまうため注意が必要です(図1)。母豚を1度立たせることにより胎仔のつまり・引っかかりが解消する場合があります。母豚を立たせても子豚が娩出されない場合は、助産の実施を検討します。
助産は、母豚の陰部より腕を入れ、産道をふさいでいる子豚を取り出すことです。助産は母豚への負担が大きく、また雑菌の感染リスクも増加するため、むやみに行うことは推奨されません。まずは上記の方法(腹部マッサージなど)を試し、母豚の様子をよく確認したうえで行うようにしましょう。
助産の手順
助産を行う際は、写真のセットを用意します。人の怪我を防ぐため、母豚が体の左側を下にして寝ているときには左手、右側を下にして寝ているときには右手で介助を行います。手袋を装着し、潤滑剤に浸したのち消毒剤を十分にふきつけます。潤滑剤は摩擦を少なくし炎症のリスクを抑えるためのものです。消毒剤とともにしっかり手袋につけるようにしましょう。
母豚の陰部も消毒してから、手をすぼめて陰部に腕を入れ、産道内を探ります。助産の回数をできる限り少なく済ませ母豚の体力消耗を抑えるため、1度の助産で手の届く範囲にいる子豚をすべて取り出します。助産後は数十分様子を確認し、手を加えなくても子豚が娩出されるようであれば助産は停止します。
助産を行った母豚に対しては、分娩終了後に子宮洗浄および抗菌剤の投与を行います。中研では、子宮洗浄は生理食塩水500mlにイソジン15mlを加え、AIカテーテルを用いて子宮内部に注入して行っています。また母豚の消耗が激しい場合、カルシウム補充剤であるニューグロン・Sの投与や補液(乳酸リンゲル液や生理食塩水の皮下投与)も検討するとよいでしょう。管理獣医師と相談してください。
分娩前の死産対策
最後に、分娩開始前に行える死産対策に関する知見を紹介します。
母豚の過肥は分娩時の子宮収縮力の低下や授乳期の飼料摂取量低下を引き起こすため、一般に分娩直前の母豚への飼料の多給は推奨されていません。しかし、分娩時の母豚のエネルギー不足は難産につながります。母豚が分娩のために使用するエネルギーが不足しないような対策が重要です。
分娩前の最後の摂食から分娩までの時間が短い母豚は、より死産率が低く、助産を必要とする頻度が少ないという研究報告があります。この研究では母豚の血糖値も測定しており、最後の摂食から分娩までの時間が短い母豚の方が最初の子豚を娩出してから1時間後の血糖値が高く、エネルギーを維持できているという結果が示されました。
また、分娩直前の給餌頻度を増加させることで死産率が低下したという研究報告もあります。この研究では、分娩舎での給餌を1日に1.8kg×1回とした区と0.9kg×2回とした区とを比較し、給餌を2回に分けて行った区で死産率が減少傾向にあったことが確認されています。この結果も、給餌回数を分けることで摂食から分娩までの時間が短くなったことが要因と考えられます(図2)。死産対策として、分娩舎での給餌を、量はそのまま・回数を増やすようにしてもよいかもしれません。
サプリメントによるエネルギー補給も対策のひとつとして考えられます。(株)科学飼料研究所では、母豚の分娩サポートサプリメントとして「ワンアップ」を発売しました。ブドウ糖が配合されており、分娩に必要なエネルギーの補給が可能です。分娩予定日1週間前から分娩完了まで毎日300g「ワンアップ」を給与することによる死産率の低下が確認されています(図3)。また、ビタミンB群やウコン抽出物も配合されており、分娩後のケアにも効果が期待されます。取り入れてみてはいかがでしょうか。
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