種豚の能力を最大限に引き出す飼養管理
第18回全農養豚セミナー2024

2025.01

JA全農畜産生産部は11月21日、第18回全農養豚セミナー2024を東京都内で開いた。生産性向上に取り組む農家の経営や技術から、専門家による家畜疾病への対応、国内外の豚肉需要動向、海外のアニマルウェルフェアの状況までを幅広く紹介。多様な視点から、養豚経営の向上につなげるための情報を提供した。

JA全農畜産生産部 富所 真一 部長

 今回で18回目を迎えた養豚セミナーは、実開催とウェブ合わせて208人が参加した。前年よりも30人ほど参加者が増加。JA全農畜産生産部の富所真一部長は「飼料畜産情勢では令和3年以降、飼料・資材価格の高騰が続き、現場には営農継続が危ぶまれるほど甚大な影響がある。これに加え、家畜疾病も猛威をふるう。豚熱は国内で94例が発生し、感染した野生イノシシが常在しているなど感染リスクが高い状況の中で、農家は気の抜けない日々に大変苦労していると思う。養牛では、韓国で発生したことで国内侵入が懸念されていたランピースキン病が先日国内で初発生した。アジアで感染が広がるアフリカ豚熱も同様の懸念がある。水際対策を含め、業界一丸で取り組んでいきたい」とあいさつした。

 続いて同部の児玉博士が「2023Web PICS」の集計結果を報告後、北海道の有限会社鈴木ビビッドファームと、長野県の有限会社クリーンポーク豊丘が農場での取り組みを発表。専門家らによる特別講演も行われた。

2023年Web PICS集計結果

ちくさんクラブ21  150号参照

※Web PICS(くみあい養豚生産管理システム):JA全農が提供しているクラウド型養豚生産管理システム。導入、種付け、分娩、哺育、離乳、廃用、へい死、出荷等を入力することで、母豚の繁殖成績や農場全体の成績を把握できる。

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事例発表

1.哺育期間を延ばして事故率を大幅低減

有限会社 鈴木ビビッドファーム 代表取締役 鈴木 康裕 氏

 当農場では昨年から哺育期間を21日から28日に延ばして離乳する取り組みを始めた。理由は離乳による子豚のストレスを低減し、事故率を下げるためだ。当農場の地域は、冬がマイナス20度、夏が30度ほどの気温になり、寒暖差が大きく子豚へのストレスがかかりやすい。そのため、哺育期間を延ばすことで丈夫な子豚に育て、ストレスに対する抵抗力をもたせる狙いがある。その結果、現在の事故率は年間で1%を切るほどまで低減した。

 一方で、哺育期間を延ばすことにより分娩舎で発情がくる母豚を確認するケースが多発した。その場合は分娩舎で交配するなど臨機応変に対応。それにより分娩率を高めることができた。

 哺育期間を延ばすだけでなく、子豚が快適に過ごせる環境作りも行った。保温箱に設置するカーテンは耐久性を保ちながら子豚が出入りしやすいように改良した。尾かじり対策では豚房内に鎖を設置し、飼料摂取量を高めるためにはピッカーを増設した。

 これらの取り組みは全て従業員や関係者が参加する検討会で内容を決め、改善に向けて取り組んでいった。

2.ストレスをかけない飼養の基本励行

有限会社 クリーンポーク豊丘 専務取締役 松下 翔太郎 氏

 長野県下伊那郡豊丘村の農場は集落から600mほど離れた見晴らしのよい場所に位置する。敷地を取り囲むようにフェンスと電気柵を設置し、豚熱を含む外部からの病気の持ち込みに細心の注意を払う。シャワーイン・アウト方式を採用し、シャワー室は二つ設置している。

 当農場は、4頭の雄豚がおり、100%自家精液で経営する。暑熱対策として分娩舎、肥育舎ともに細霧装置を設置するなど豚のストレス低減に取り組む。

 近年の取り組みで特に効果的だったのはミニスプリンター(給餌器)の導入だった。哺乳と合わせて補助的に飼料を与えることができ、離乳時の子豚の体重が向上した。また、母豚の下に敷く圧死防止すのこ(バランスフレーム)も高い効果が得られた。母豚の寝起きによる子豚の圧死をほとんど防げることが分かったため、高額だが、今後は分娩舎全体に導入することも視野に入れている。

特別講演

1.豚⾁の需給 輸⼊豚⾁をめぐる情勢

独⽴⾏政法⼈ 農畜産業振興機構alic 大内田 一弘 氏

 国内の豚肉は国産・輸入ともに消費量が増加傾向にあり、23年度時点では年間184万2千tに上った(alicによる推定出回り量)。豚肉は特に家計消費が多く、生活必需品に近い位置づけだ。グラム当たりの単価が高い牛肉が減少トレンドの中、コロナ下でも消費を伸ばしてきた。

 20年間で国産・輸入を合わせた流通量が30万t増加。需要が上がる中、国産の増産に合わせて輸入も増える形となっている。豚肉の自給率(重量ベース)は約50%程度としている。

 国別の輸出動向をみると、ブラジルの台頭が目立つ。ブラジルの日本への輸出は、冷凍品においては14年度時点で全体の1%だったものが、23年度は7%を占める。世界的に豚肉の生産コストが上がる中、自国で飼料生産を賄い、人件費も低い傾向にあるブラジルは低コストでの生産が可能となっているためだ。ブラジルは世界的に豚肉の輸出で存在感を示している。冷蔵品では、メキシコからの輸入割合が増加。14年度が全体の4%だったものが、23年度は10%まで増えた。

2.豚熱・ASFの感染を防ぐために

鹿児島大学共同獣医学部 特任助教 伊藤 聡 氏

 野生イノシシにおける豚熱は24年8月末時点で38都府県で発生し、本州はほぼ全域で広がっている。農場での発生は18年の国内初発生以降、94例(11月1日時点)。ワクチン接種農場での発生もある。ワクチンは発生リスクを低減するものの気が抜けない。農場への野生イノシシや猫、野鳥などの動物、ウイルスが付着した車などを持ち込まない基本対策が重要だ。

 野生イノシシで豚熱が広がる要因には①感染した野生イノシシの移動②人や物による長距離移動――が推定されている。②のようにウイルスが付着した物品で豚熱発生地域から離れた場所で発生することもある。一度山林に広がると、感染を把握するための調査も行き届きにくい。

 アフリカ豚熱(ASF)はアジアで拡大し、日本への侵入が危惧される。今年新たにスリランカでも発生し、アジアでは日本と台湾以外は感染を確認した。海外の事例や豚熱の状況をみると、日本も一度発生すれば広がる可能性が高い。「持ち込まれるとしたらどのルートか」を普段から把握し、早期発見に努めることが重要だ。

3.デンマークのアニマルウェルフェア

JA全農 飼料畜産中央研究所 養豚研究室 山下 大河 氏

 24年1月末から2月にかけてデンマークでアニマルウェルフェア(AW)視察を行った。デンマークは約4万3000㎢の国土のうち半分を農地が占める。豚の年間生産頭数は3180万頭で日本の1.5倍ほどあり、多くが輸出向けだ。視察では、農業組織のデンマーク農業理事会(DAFC)を訪問した。デンマークではフリーストール化、群飼育に加え、床にわらをまく、スプリンクラーの設置などを義務化している。慣行的な断尾も禁止だが、尾かじりなどの影響もあるため反対する生産者も多いという。去勢は麻酔、鎮痛下で生後2~7日以内の実施を義務化。DAFCは品種改良で雄臭を減らしたデュロック種を開発中で、未去勢の雄豚の生産頭数増を目指す。

 AWに取り組む現地農場も視察。分娩後は母豚が動けるように柵が外されていることや、爪が傷つきにくいプラスチックすのこの利用、わらの常備などが特徴的だった。AWの実現には、設備投資だけでなく、品種改良、飼料、作業員のトレーニングなどを組み合わせなければ難しいといった課題が明らかとなった。

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