技術とアイデアを競う熱き大会/第8回和牛甲子園

2025.04

 JA全農は1月16・17の両日、全国の農業高校で和牛を肥育する“高校牛児”の日本一を決める第8回和牛甲子園を東京都内で開いた。25道府県から40校が出場し、日頃の飼養管理の研究成果や枝肉の品質を競い合った。今大会では初の試みとなる「高校牛児交流会」も実施した。

 大会1日目は品川グランドホール(東京都港区)で開会式や和牛飼育体験発表会などが開かれ、高校牛児や関係者ら総勢約240人が参加した。福島県立会津農林高校の石井秀寿 (いしいひでとし)さんら5人が出場校を代表し、「第8回和牛甲子園に出場できることに心から感謝し、さらに盛り上げていくことを誓います」と力強く宣誓。会場は厳かな雰囲気に包まれ、牛児たちは真剣な表情で見守った。

 JA全農の由井琢也常務理事は「飼料や資材価格が高騰するなどし、畜産業界は厳しい状況にある。こうしたなかでJA全農は、日本の和牛生産を守りたいという思いで事業に取り組んでいる。和牛生産を一生の仕事にしたいと思う生徒が一人でも増えたらうれしい」と熱い思いを伝えた。

6回目の出場で初の栄冠に輝く

 総合評価部門の最優秀賞には広島県立西条農業高校が輝いた。6回目の出場で初の「総合優勝」の快挙を成し遂げた。取組評価部門が44.8点、枝肉評価部門が46点、総合評価部門計90.8点を獲得した。

 優良賞を受賞した取組評価部門では「広島和牛に新たな息吹を!~地域と目指すブランド向上~」をテーマに発表した。日本酒の醸造過程で生じる「赤ぬか」を使ったペレットを肉牛に給与することを試し、産肉性のアップに成功。さらには、戻し堆肥の活用で敷料費を年間で約51万円削減するなど、経営改善に直結する成果も報告した。

 枝肉評価部門では、「枝肉全体のバランスが良く、肉質がきめ細やか」との高評価を得て、優秀賞を受賞した。

 総合優勝を獲得した瞬間、生徒4人は「わあ!」と歓声を上げ、手を取り合って喜んだ。涙ぐむ様子も見せた。同校3年の内城粋咲(うちじょういさき)さんは「和牛甲子園に出場したくて西条農高に進学し、肉牛班に入った。取組評価部門でも最優秀賞をとるのが目標だったので悔しくもあるが、今はうれしいという気持ちが優っている」と快挙に喜んだ。

総合評価部門 最優秀賞 広島県立西条農業高校

牛児らは本物の牛皮に寄せ書きをした
宣誓する福島県立会津農林高校の石井さんら
高校牛児交流会では、取り組みの改善点や将来の進路について意見交換を行った
高校牛児交流会では、取り組みの改善点や将来の進路について意見交換を行った

高校牛児交流会では、取り組みの改善点や将来の進路について意見交換を行った

審査方法

 和牛の飼養管理における取り組みや創意工夫、チャレンジなどを評価する「取組評価部門」と、和牛枝肉の品質を評価する「枝肉評価部門」の2部門(各50点満点)で成績を競う。合計点が最も高い高校が「総合評価部門」の最優秀賞を獲得し、高校牛児の“頂点”に立つことができる。

審査方法
JA全農の由井琢也常務理事

2年連続の快挙 マニュアル化で後輩へつなぐ

 取組評価部門の最優秀賞は岐阜県立加茂農林高校で、2連覇を果たした。同校は昨年に引き続き、飼料米入りの配合飼料を用いた給与実験を実施。嗜好性の悪さといった課題から配合飼料の改善につなげ、肉牛の体重増加と肉質改善、飼料費の削減に成功した。

 アニマルウェルフェア(AW)の取り組みにも注力。「AWと生産性の向上の両方を実現する」という目標を掲げ、牛の飼育環境の改良にも取り組んだ。具体的な取り組みの一つが、loT機器を活用したルーメン温度測定と疾病の早期治療。牛の不調に早く気づき、さらには生産性を向上させるべく、ルーメン温度と体温が高い牛への対応方法をマニュアル化した。

 同校3年の渡邉煌(わたなべきら)さんは「研修先のブラジルで牛たちが広大な農場で放牧されていた。研修での経験を和牛甲子園でも生かしたいと考えた」と取り組みのきっかけを振り返った。

 同部門の審査委員長で東京農業大学農学部の多田耕太郎教授は「ルーメンや直腸などの温度を細かく記録し、これらのデータと牛の体調の関係性を見つけ出した。さらには自分たちの研究成果を後進たちも活用できるようにと、マニュアルを作ったのがとても素晴らしい」と称えた。

取組評価部門 最優秀賞 岐阜県立加茂農林高校

取組評価部門 最優秀賞 岐阜県立加茂農林高校
発表する岐阜県立加茂農林高校のメンバー
分かりやすく工夫された発表資料も評価されました!
取組評価部門の入賞校一覧
さまざまな取り組みが発表され、牛児は真剣な眼差しで聞き入った
さまざまな取り組みが発表され、牛児は真剣な眼差しで聞き入った
さまざまな取り組みが発表され、牛児は真剣な眼差しで聞き入った

さまざまな取り組みが発表され、牛児は真剣な眼差しで聞き入った。

高校牛児OG講話 元”牛児”が進路について率直にトーク

 高校牛児の進路選択に役立ててもらおうと、和牛甲子園OGによる講話が行われた。登壇したのは、第5回大会総合評価部門で最優秀賞を受賞した愛知県立渥美農業高校の卒業生4人。宮崎大学農学部で学び農業高校の教職を志望している藤井琴未さん、北海道の帯広畜産大学で酪農を学ぶ村上すずさん、東北動物看護学院に通い動物看護師の国家資格取得を目指す清水梨里菜さん、東京農業大学農学部で未利用資源の活用方法などを学ぶ奥田里紗さんが登場した。和牛甲子園での経験が進路決定に役立ったこと、高校時代の思い出、高校牛児へのアドバイスなどを伝えた。

高校牛児OG講話 元“牛児”が進路について率直にトーク

外観・肉質ともに抜群 2連覇を達成

 枝肉評価部門で最優秀賞を受賞したのは鹿児島県立鹿屋農業高校。昨年大会とほぼ同じメンバーで挑み、2連覇を果たした。

 出品牛「虎大号」(父=喜亀忠、母の父=安福久、母の祖父=金幸)は、枝肉重量653kg 、ロース芯面積115.0cm2、バラの厚さ11.3cm、皮下脂肪の厚さ2.0cm、歩留基準値81.9、BMS No.12となった。同部門の審査委員長で日本食肉格付協会の末吉正実部長は「特に注目したいのは81.9という歩留基準値。80を超える枝肉は非常に優れていると言える。また、色合いが鮮やかで光沢もあり、きめが細やか。外観、肉質が共に素晴らしく、審査員全員が最優秀賞に推した」と講評した。枝肉は1kg3538円だった。

 同校3年の山口蒼真(やまぐちそうま)さんは枝肉を見た瞬間に手応えを感じたという。また、同じく3年の浦﨑聖斗(うらさきまさと)さんは、「自分たちが1年生の頃から育ててきた牛が高く評価され、とてもうれしい」と喜んだ。

勉強会で枝肉の見方を学ぶ

 2日目は朝から東京都中央卸売市場食肉市場で、枝肉勉強会が開かれた。審査委員が枝肉の断面を見ながら肉質などを解説した。その後、せりが行われ、生徒らは出品牛を見守った。枝肉の最高値は兵庫県立但馬農業高校で、1kg4049円で競り落とされた。

勉強会で枝肉の見方を学ぶ
枝肉審査を見守る牛児ら

枝肉評価部門 最優秀賞 鹿児島県立鹿屋農業高校

枝肉評価部門 最優秀賞 鹿児島県立鹿屋農業高校
最優秀賞の鹿屋農業高校の枝肉断面。
きめの細やかさが評価された。
枝肉評価部門の入賞校一覧

和牛甲子園をもっと詳しく知りたい方は…

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