組織基盤強化で合理的かつ更なる安全安心な生産体制構築へ
北海道内の2社4農場が4月、個別経営からホクレンくみあい飼料株式会社の直営農場に転換した。
これは、「ホクレンのたまご」の基幹産地であった両社経営者の高齢化と生産販売体制の再構築の必要性があったためだ。
4農場の生産量は、鶏卵販売を担うホクレン農業協同組合連合会の取扱量の約半分を占めている。
今回の事業転換により、生産(ホクレンくみあい飼料)から販売(ホクレン)まで、系統内で一気通貫した合理的な体制を構築することができた。
また、系統関連会社の科学飼料研究所、全農畜産サービス、全農クリニックセンター札幌分室、管理獣医(KPSC)などと連携し、課題の早期発見と対処などを行い、より一層安全安心な鶏卵生産を行っている。
今回は4農場のうち3農場の現場で働く皆さんを紹介する。
白老農場
抜群のチームワークで丈夫なヒナを育成
白老農場の事務所からは毎朝、楽しそうな声が聞こえてくる。特に休み明けは、談笑がしばらく続くことも。ところがいったん、作業が始まると雰囲気が一変し、従業員5人全員が打ち合わせた内容に沿って黙々と作業に打ち込み始めた。
「朝礼では全員発言します。その日の体調を含め、お互いのことをより良く知る大切な時間にしています」。菅原和裕場長はそうしたコミュニケーションが、チームワークの良さの秘訣だと語る。
同農場は育成農場で、初生雛から幼雛、大雛まで飼養し、年間最大33万羽を出荷する。「成鶏農場でしっかりと卵を産ませるところまでが仕事」との思いで、「ホクレンのたまご」生産を支える供給基地だ。11haの敷地には育雛用が3棟、大雛用が6棟。これらとは別に、初生から大雛まで一貫して育てる新しい鶏舎が2棟ある。
育雛はいかにストレスをかけずに、丈夫な体を作っていくかが課題だ。通常、ふ化後6週で大雛棟へ移動する際、外気に触れることがあり、体調管理に細心の注意を払ってきた。白老町は海に面し道内では比較的温暖であるものの、冬場は日中でも最高気温が氷点下の日もある。新鶏舎はウィンドウレスで一貫育成のため、その厳しい寒さを気にせず、健康な大雛を生産することができるのだ。
菅原和裕場長は「6週はヒナにとって骨格を作る大事な時期。鶏舎内でのストレス負荷を抑えることを心がけています。新鶏舎は移動を行わない一貫鶏舎のため、6週後の体重の増え方がこれまでよりも良いです」と手応えを感じている。
これまで育雛舎は6週でヒナが移った後、ケージをはじめ鶏舎の中を掃除して水洗いし、消毒して次のヒナを迎え入れてきた。2人がかりで作業に専念し、丸2日半か3日かかる大仕事だが、これも必要なく省力化のメリットが大きい。また、新鶏舎は自動化によって、給餌や水やりがヒナの体調に合わせてコントロールしやすくなり、除糞は中4日に短縮されて衛生面も向上した。トンネル換気による温度管理も自動制御で、冬場や季節の変わり目など温度変化によるストレスも緩和されている。
健康管理では丈夫な成鶏にするため、適正なワクチン接種を行い、ストレス軽減のためにはビタミン剤を投与するなど、基本管理の徹底にも余念がない。
従業員5人のうち、4人は20~30代と若く職場は活気に満ちており、仲が良い。実は5年前、当時の農場長が病気で急逝し従業員がバラバラになりかけた。あの危機を繰り返してはいけない――。その思いが和やかな雰囲気づくりの原点であり、今の朝礼の姿に表れている。
菅原和裕場長は「これからも採卵農場に、健康な良い鶏を供給していきたい。それに尽きます」と語る。困難を乗り越えて笑顔が咲く農場のヒナは、きっと消費者に美味しい卵を届けてくれるはずだ。
恵庭農場
データに基づく緻密な飼養管理
恵庭農場は現在、5haの敷地に鶏舎5棟で成鶏22万7000羽を飼い、年間3940tの鶏卵を出荷する。このうち白玉は8割、赤玉2割。4棟の鶏舎には直立4段のケージが100mにわたり、各棟にこれが4ライン入る。もう1棟は最近導入したもので、同じく直立4段84mのラインが8ライン入る仕様だ。新鶏舎の導入により、飼養羽数が以前の約1.5倍となる現在の規模に拡大した。
鶏を病気にしない――。開設以来、鶏の観察に重きを置いた基本の徹底が安定生産の礎となっている。当初、業界で最新型のウィンドウレス鶏舎でスタートしたが、想定以上に餌を食べてしまうなど思うような管理ができず、成果がなかなか出せなかった。先輩たちの苦難の末に生まれたのが、徹底した鶏舎のデータ収集と分析だ。
以来、温度や換気量などの環境データや各種生産データなどの項目を毎日蓄積し、現在の年間生産計画は1日ごとにへい死や産卵率、サイズバランスなどの指標を設ける徹底ぶりだ。毎日、生産管理の指標があることで、鶏や飼養環境の異状をいち早く発見することができ、トラブルの兆候の段階で抑え込めているという。
衛生面でも鶏舎の天井や壁、床の清掃や消毒を毎月行うほか、床掃除は毎日行い、ほこり一つ軽視しない管理姿勢につながっている。飯塚貢場長は、「当時の先輩方は深夜まで鶏と鶏舎の状況を観察していたと聞きます。大変な苦労とデータの蓄積は、新鶏舎でも活かしていきたいです」と農場の源流から未来を見据えている。
新鶏舎はシステム管理のため温度や卵の数、餌・水の量などの飼養環境を事務所にいながら確認することができ、タッチパネル方式で一定の調整もできる。これまで1人あたりの管理羽数は4万羽から、2倍の8万羽に拡大した。省力化はもちろんのこと、現場で機械を使った作業や修理など力仕事が少なくなったことで、作業者の間口が広がったことが最大のメリットという。
農場の従業員は8人だが年配者も多い。人材確保と働き方改革が農場運営の重要課題となる中で、新鶏舎を担当しているのは、新卒3年目の佐藤くるみさんだ。佐藤さんは「機械がいろいろとやってくれるのはいいですが、より良い飼養管理のために細かいところは先輩たちから教わっていきたいです」と観察眼に磨きをかけている。
これからの経営を持続可能なものにするため、鶏の能力向上に合わせてデータの活用は更に進化させる。規模拡大に向けた省力化と人材確保の両面でメリットのある新鶏舎の導入を今後も進めたい考えだ。
十勝清水農場
120回を超える検討会で業務の課題を改善
十勝清水農場は、「ホクレンのたまご」の基幹的な養鶏場だ。鶏種は成績が安定していることに加え、病気に強く、飼育しやすいジュリアを中心にしている。敷地面積は40haで、育成舎2棟、採卵鶏舎4棟╳2ロット、集卵舎1棟で構成。農場では初生雛の育成から成鶏までの一貫生産を取り入れている。管理を受託する清水養鶏の目黒充英社長は「ストレスの軽減など健康を第一に考えることが、成績の向上につながります」と話す。
鶏にストレスを与えないように、1つのケージで飼養する成鶏の羽数を通常の6羽/ケージから5羽に減らしている。一般的な飼養方法に比べると羽数は16%減ってしまうが、格外卵の数が抑えられ商品化率は2%上回った。健康増進を狙って、10年ほど前から飲水にはマイナスイオン水を与えている。これらの取り組みの結果、農場全体の有効産卵率は90%ほどとなっている。
衛生管理では徹底して基本を励行している。これまでに畜産衛生管理の認証制度である農場HACCPと同水準の衛生管理が行われているとのお墨付きを得ている。
集卵と鶏舎の管理を担う従業員は10人。特徴的な取り組みの1つに毎月1回の業務検討会がある。仕事の課題を従業員間で話し合い、改善していくもの。10年ほど前に始め、開催回数は120回を超える。テーマは「はしごに上る時に、どのように安全な体勢を確保するのか」「交差汚染をさらに防止するために農場内の動線管理を強化すべきか」などで、毎回1時間から1時間半ほど話し合う。チームワークが良くなったり、コミュニケーションが活発になるといった効果も現れた。目黒充英社長は「回数を重ねるごとに内容が深まっています。人材の成長にもつながっています」と話す。
農場には30年の歴史がある。大きな転機の1つが北海道胆振東部地震だ。1日だけ電源喪失を経験した。ウィンドウレス鶏舎は、飼料や水の供給が全自動となる一方で、電力がなければ稼働できないリスクもある。当時から備えていた発電機2台を稼働した。「生き物を扱っているため、万全の備えが必要。準備や備えの重要性を改めて感じました」と、目黒社長は振り返る。こうした経験の結果、今では万全の生産体制ができているという。目黒社長は「維持するのは大変ですが、一生懸命にやっていきたい」と将来を見据える。