~行動、健康、そして 生産性への影響~前編
全農酪農セミナー2021カウコンフォート 前編~行動、健康、そして生産性への影響~

2022.04

 第15回目を迎えた全農酪農セミナーはコロナ禍のため、昨年度に引き続きオンライン形式での開催となりました。今年度は本会と共同研究を実施しているウィリアム・H・マイナー農業研究所(アメリカ)のリック・グラント学長に『カウコンフォート』について講演いただきました。今号では「カウコンフォートの概要」について、次号で「休息の重要性」についてご紹介します。

「カウコンフォート」とは

(1)カウコンフォートの重要性

 酪農経営を改善したい時、さまざまなアプローチが挙げられます。その中でも「カウコンフォート(牛の行動)」は非常に重要なことの1つです。特に、昨今の飼料価格高騰が続く情勢においては、飼料に対する牛の反応を最大限引き出すためにもその重要性は増しています。

 生産性の向上を考える時、多くの方がイメージするのは飼料設計ではないでしょうか。飼料設計は、牛の採食や反すうに影響し、ルーメンpH、更には乳量及び乳成分にも影響を及ぼします。しかし、今回は飼養管理の環境に注目してみましょう。

 飼養管理の環境によって牛の行動「カウコンフォート」は変化し、飼料に対する牛の反応は大きく変わります(図1)。これまでの研究により、生産性や快適性への影響が最も大きいのは以下の4項目であるといわれています。

  • ① 快適で清潔なストール
  • ② 飼料・水への自由なアクセス
  • ③ 自由な行動
  • ④ 管理者との関係

 ①と②は休息や採食行動に大きく影響する項目であり、この2つの行動で牛の1日のおよそ70%の時間を占めます。④は生産者との関係です。生産性において、この「管理者との関係」こそ、最も基盤となる要素です。常に紳士的で温和に声掛けされる牛群と、大声で粗暴に扱われる牛群を想像してみてください。管理者の対応の違いだけで、この2つの牛群の乳量は3~10%も変わります。

(2)牛本来の自然な行動

 牛が牛であるために必要な時間、つまり牛本来の自然な行動を理解する必要があります。牛本来の採食、休息、反すう、飲水、更には社会行動の全てを理解することが、牛を「成功する牛」たらしめるのです。

 例えば、牛にとって休息時間は採食時間よりも優先度が高く、休息時間を確保するために採食時間を減少させます。一方で、理想的な環境下においては反すうの90%以上が横臥している間に起こります。このことから、十分な採食、反すうには十分な休息を確保する必要があるのです。

 「カウコンフォート」を改善すれば、農場の経済性は継続的に改善されます。また、施設や管理方法への適切な投資(図2)は、牛の健全性・生産性を大きく改善し、より大きな見返りをもたらすのです。

(3)管理・環境について ~全体を見よう~

 管理と乳生産の関係について興味深い試験を紹介します(Bach et al.,2008)。全く同じTMR(混合飼料)を給与する47戸の農場について、その乳生産は戸別に20~34kg/日の差が生じていました(平均30kg/日)。遺伝的にも似通っており、乳量への影響が大きかった要因は①残餌の有無②エサ押し③1頭あたりのストール数(飼養密度)です。このうち、①と②は「自由な採食ができる環境かどうか」を示し、③は「十分な休息を取れる環境かどうか」ということを示しています。③について、過密になると多くの悪影響を及ぼすこととなります(図3)。しかし、この過密による悪影響は全ての農場において顕在化するものではありません。では、農場間の差の原因となっているのは何なのでしょうか。

 過密は「潜在的なストレス」と考えられます。日々、飼育管理下にある牛たちは少なからずストレスを受けており、そのストレスは牛の生体機能に負荷をかけています。

 通常状態(図4左)では、牛は生体機能を必要なものに適切に配分できている状態です。まずは生体維持、その上で乳生産や繁殖、免疫反応が適切に維持される余裕があり、更には余剰な栄養を蓄積に回すことも可能です。しかし、過密によるストレスを受ける(図4中央)と本来蓄積に回るべき生体機能がストレスを取り除くために使用されてしまいます。この状態では、まだ通常の乳生産、繁殖、免疫(疾病状況)が保たれているので、表面上は「正常」に見えますが、実際には綱渡りをしているのに等しいのです。この時既に、生体機能の一部は損なわれているということです。もし、ここに別のストレスやより強い過密ストレスを受けた場合、問題が一気に顕在化します(図4右)。こうなると、牛はストレスの対応に摂取した栄養や生体機能の多くの部分を向けなくてはなりません。この状態では、乳生産や繁殖、免疫などに問題が発生してしまうのです。具体的にどのくらいの影響を及ぼすかは、各農場の管理状況によるため一概にはいえません。これこそが過密による影響が農場ごとに異なる理由です。ここで大事なことは、過密は生体機能の一部を損なうきっかけになっているということ。更に別のストレスが加わる、あるいはより過密になることで、目に見える形で悪影響が出るということになります。過密は牛群や育成期・泌乳期を問わず問題となるのです。

最適な飼養密度は?

 では、最適な飼養密度はどれくらいでしょうか? 移行期では、飼槽スペースはスタンチョン数に対して80%以下を推奨します。フリーストールでは、1頭あたり1つ以上のストール数が必要です。乾乳後期・産褥期ではいずれにおいても絶対に飼養密度100%を超えてはいけません。

 泌乳期においても100%以下に抑えることができればそれに越したことはありません。現実的には、ストール数に対して115%程度は問題ないです(初産牛と経産牛を混ぜる場合は100%が上限)。最も大事なのは、飼料、水、ストールへの自由なアクセスを保証してあげることです。つまり好きな時に飲み食いができ、寝ることのできる環境がベストです。

 次号では「休息の重要性」についてご紹介いたします。

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