梅雨前から始める夏場対策
梅雨前から始める夏場対策:夏が来る前にサシバエ対策を!

2022.04

 毎年のように牛や人間を悩ませる害虫「サシバエ」。気温が上昇する春~初夏にかけて発生しだし、秋頃に最も多くなります。今回は、サシバエの特徴と早期の対策方法について、笠間乳肉牛研究室で実施した事例も交えてご紹介します。

笠間乳肉牛研究室

サシバエの特徴

 サシバエは日本全国に分布する吸血性のハエです。雌のみ吸血するアブなどと異なり、雌雄ともに吸血します。成虫の大きさは、雄は体長3.0~6.5mm、雌は体長5.0~8.0mmと、雌のほうがやや大型です。同じく牛舎でよく発生するイエバエとは、見た目は似ていますが口器に違いがあります。サシバエは皮膚に挿し込んで吸血するための硬く長い針状の口器を持っており、この口器を見ればイエバエとサシバエの判別が可能です(図1)。

 サシバエは猛暑時や夜間(光がないところ)はほとんど活動せず、春や秋の暖かい日中や夏場は朝夕の涼しい時間帯に牛舎に出入りしています。飛翔能力が高く、吸血対象を探して数km飛行することもあります。

 サシバエは家畜の糞中に産卵するため、牛床や堆肥が主な発生源となります(図2)。親は1回に100~200個の卵を産み、それが約2週間で成虫になります。成虫は羽化後約1週間で産卵を開始するため、あっという間に増殖します。1対の雌雄が、数カ月後には数万匹になるとされています。ちなみにイエバエもほぼ同じライフサイクルですので、ハエだけで数百万~数千万匹になるのは想像に難くないでしょう。

サシバエの被害

 サシバエは家畜の中でも牛や馬などの大型動物を好んで吸血します。吸血時には強い痛痒さをともなうため、牛には大きなストレスになります。そのため牛は尻尾を振ったり、肢を上げたりして、サシバエを追い払おうとします。また、群飼の場合は、サシバエが寄りつく部分を減らすために、複数頭が一カ所に集まる行動を示すことがあります。

 このようなサシバエ回避行動によって、本来採食や休息にあてるべき時間が少なくなり、増体低下や乳量減少などの損失をもたらします。病原菌を媒介するともいわれており、疾病の伝播による生産性の低下も懸念されます。サシバエは人間を刺すこともあるため、農場で作業する方も注意が必要です。

サシバエ対策の考え方 成虫対策と幼虫対策の両輪で

 サシバエは1日2~3回、1回に約5分間吸血するとされています。吸血時以外は牛舎外の草木にとまって休んでいるため(図3)、牛舎内には成虫全体の5~10%ほどしかいません。つまり牛舎の外も対策しないとほとんど効果はありません。また、成虫よりも幼虫のほうが圧倒的に多いため、成虫・幼虫対策を両輪で回す必要があります。

 幼虫対策は、発生源(糞尿・堆肥)への対策が基本です。発生源となり得る糞尿は速やかに取り除いて床全体を乾燥させることで、幼虫が生存できない状態にすることが求められます。また幼虫が成虫になるのを防ぐIGR剤を発生源に散布することも効果的です。

 成虫対策としては、牛舎周辺の草刈りなどの環境整備とともに、成虫の分布を知ることが重要です。休む草木の中でも好みがあるようなので、特に多くとまっている〝ホットスポット〟を見つけられれば、重点的な対策が可能になります。直接の対策には、噴霧殺虫剤(ETB乳剤やペルメトリン乳剤など)を散布する方法があります。ただし薬剤耐性がつくことがあるため、シーズンごとにローテーションするなど、使い方には注意が必要です。

笠間乳肉牛研究室での対策事例

 昨年、笠間乳肉牛研究室では、サシバエ対策としてまず場内の成虫分布を調査しました。その結果、繁殖牛舎周辺の木々や北側の竹藪周辺に、特に多くの成虫が潜んでいることが分かりました(図4)。この〝ホットスポット〟を中心に、牛舎内外で噴霧殺虫剤を1~2週間に1回のペースで散布しました(図5)。また北側の竹藪周辺の草刈りを定期的に実施しました。幼虫対策として、糞尿が常時蓄積するガタークリーナー部分にIGR剤を毎日散布しました。

 この成虫・幼虫両方への対策により、例年に比べサシバエの被害を大幅に減らすことができました。しかし昨年の対策は、夏場に入ってからのやや遅れたスタートになってしまいました。今年は春先から開始し、更なる低減効果を確認する予定です。皆さんも春~初夏のうちに、〝五月蠅い〟ハエ対策、実施してみてはいかがでしょうか。

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