~行動、健康、そして生産性への影響~ 後編
全農酪農セミナー2021カウコンフォート 後編~行動、健康、そして生産性への影響~

2022.06

休息の重要性

 第15回目を迎えた全農酪農セミナー。前号では「カウコンフォートの概要」についてご紹介しました。今号では後編として、「休息の重要性」についてご紹介します。

(1) 時は金なり?

 前号で、休息や採食行動が牛の1日のおよそ70%の時間を占めることをご説明しました。これに加えて、飲水や起立、歩行、毛づくろいなどの行動時間を加えると20.5~21.5時間となり、この時間が牛にとってはしっかり確保したい時間となります。つまり、残りの2.5~3.5時間が搾乳に割り当てることのできる時間となります。24時間という限られた時間の中で、牛の快適性を損なうことなく搾乳を行う工夫をしましょう。

 では、具体的にどれくらいの損失となるでしょうか?興味深い試験があります。パーラーのサイズ、牛房の広さを調整し、牛房の外側で過ごす時間を3時間vs6時間とした際の影響を調査しました(Matzke.,2003)。結果は、牛房の外側で過ごす時間を3時間にした群で経産牛の休息時間が2.5時間以上、乳量が2kg/日以上増加し、初産牛では休息時間が4時間以上、乳量が3kg/日以上も増加しました。これは先述した牛たちにとって必要な時間がしっかり確保されたことで、生産性も維持されたことを示します。2.5~3.6kg/日の乳量差が経済性に及ぼす影響はいうまでもありません。

 また、初産牛と経産牛ではその行動に大きな差があります。こうした点についても意識して管理するといいでしょう。

初産牛と経産牛の行動の差

  • 採食のスピードが遅く、時間がかかる
    →初産牛は小さく、一口の摂取量も少ないので、採食に時間がかかります。そのため、より長い時間、飼槽で過ごす必要があります。
  • 群内での社会的立場が弱い
    →飼槽、ストール、給水設備などさまざまな場所で経産牛に押しのけられます。
  • 経産牛が使用したストールを避ける傾向があり、一緒に飼養した場合は反すうが減少する
    →快適なストールを避けがちで、おそらく強い牛にどかされるのを嫌っての行動と考えられます。また、横臥(おうが)時の反すうが著しく減少します。

 以上のことから、可能なかぎり経産牛と初産牛は別に管理することで、経済的損失を回避することができるかもしれません。

(2)休息は牛にとってとても重要

 休息は牛にとって最も価値のある行動であり、休息・横臥時間をいかに適切に保っていくかということを考えなければなりません。

 横臥時間に影響する要因はいくつかありますが、その中で最も大きなものの1つが飼養密度です。飼養密度、すなわち休息場所を巡る競合と横臥時間との関係は多くの試験で同様の報告があり、典型的なデータであると考えられます。

 また、横臥時間は乳量にも影響します。先ほどと同じ試験において、ばらつきはあるものの、横臥時間の増加で乳量が増加する結果が示されています。休息時間が1時間増えるごとに乳量が1kg/日増加する傾向です。

 これらのことから、牛が使いやすく、寝起きしやすく、寝ていて快適な環境づくりを目指しましょう。

(3)「完璧」な食卓の提供

 ここまで、牛の時間管理や快適性・生産性における行動や休息の重要性についてご紹介しました。ここからはいかに「完璧」な食卓を提供するか、つまり、農場での適切な給与方法についてご紹介します。

「完璧」な食卓のポイント

  • 適切に設計した嗜好性の良い飼料
    →飼料への反応、牛の遺伝能力、飼料がもつ本来の性能が十分に発揮されているか考えてみましょう。
  • いつでも採食可能な飼槽状態
  • 飼槽での闘争行動が採食を制限しない状態
  • 飲水の自由
  • 一貫性
    →牛にとっての一貫性が重要です。(給与時間が同じかなど)
  • 休息及び反すうが制限されないこと

 今一度、現在の農場の水準について見直す必要があるか考えてみましょう。今回は①餌押し②給与頻度③適切な残餌④飼槽スペースについてご紹介します。

①餌押し

 1日を通していつでも採食が可能な環境を作りましょう。餌押しをしてすぐに多くの牛が寄ってくることはありますか?餌押しの効果を実感するかもしれませんが、これは「それだけ空腹状態の牛がいる」ということの裏返しかもしれません。餌押しの際には牛の行動をよく見てみましょう。また、餌押しをすることで飼料が撹拌(かくはん)されるため、選び食いを減らす効果も期待できます。牛が常に採食しやすい環境をつくることで飼料効率が10%改善されたという報告もあります(Armstrong et al .,2008)。

 給与後2時間の餌押しが特に重要であることが分かっています。給与後は採食活動が活発になるので、この間にどれだけ餌押しできるかが腕の見せ所となるでしょう。

②給与頻度

 給与頻度の差について、1回/日より2回/日のほうが好ましいことが分かっています。給与頻度を上げることで、飼料効率の改善が期待できます。ただし、TMRの場合は4~5回/日以上給与する際には、採食時間の増加により休息時間を減らしていないかという点に注意しましょう。

③適切な残餌

 残餌の状況を確認してみましょう。残餌が非常に少ない場合、群内で十分に餌が食べられていない牛がいるかもしれません。特に、乾乳後期と産褥期においては少なくとも5%の残餌が必要です。この期間の採食、摂取量そして代謝疾病には強い相関があるため、餌が切れる状況は避けるように注意しましょう。

 とはいうものの、夕方あるいは夜に給与すると朝の給与の時には飼槽が空になっていると思います。では、飼槽はどれくらいの時間なら空の状態でも良いのでしょうか?夜0時~朝6時までの間、飼槽が空になった際の影響について試験をしました。結果、飼槽が空にならないほうが乳量が増加し、採食行動が2倍になるなどの差が出ました。夜間であっても飼槽が空になることを回避できるといいでしょう。

④飼槽スペースについて

 飼槽スペースについて興味深い試験をご紹介します。群の下位の牛について、1頭で食べられるけど嗜好性の悪い飼料、強い牛の隣になるけど嗜好性の良い飼料の2つを用意し、飼槽スペースの変化で牛がどちらを選択するか調べました。結果、飼槽スペースが狭い場合は嗜好性が悪くても1頭で食べることを選択し、広い場合は強い牛の隣でも嗜好性の良い飼料を食べる牛が増えることが分かりました。1頭あたりの飼槽スペースを確保することを意識しましょう。

(4)さいごに

 牛が快適に過ごす環境をつくることは、生産性においても非常に重要であることがお分かりいただけましたでしょうか。カウコンフォートには人と牛の関係性がとても重要です。牛にとってやすらぎの対象となるよう、優しく声かけするなど信頼関係を築いていきましょう。

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