「秋口にかけての飼養管理について」
厄介な大腸菌性乳房炎の対策/暑熱期の肥育牛のビタミンAとβカロテン

2022.08

※「中研」はJA全農飼料畜産中央研究所の略称です。

多くの酪農家の皆さんにとって、乳房炎は悩みの種です。特に症状が重い大腸菌性乳房炎の発症は、少しでも減らしたいものです。今回は中研で実施している対策を紹介します。

笠間乳肉牛研究室

厄介な大腸菌性乳房炎の対策

図1 中研における月別乳房炎発症頭数累計(2017-2021年)
図2 中研で発生した大腸菌性乳房炎に対して
抗菌剤Xが有効と判定された割合の年次別推移

7~10月に多発

 過去5年間の中研(常時搾乳頭数150頭)における乳房炎発症頭数を月別に集計しました(図1)。7~10月にかけて大腸菌性乳房炎が増えているのが分かります。このように、国内の多くの農場と同様、中研でも毎年夏から秋にかけて大腸菌性乳房炎が多発します。乳房炎、特に大腸菌性乳房炎を意識した中研での対策を以下に紹介します。

4つの対策を紹介

  1. 敷料:敷料として使用するおがくずの細菌検査を定期的に実施し(表)、乳房炎原因菌のないおがくずを乳牛舎に使っています。また、牛床が糞尿で汚れた状態では乳房炎になりやすいため、床面の管理にも注意し、夏はおがくずの投入量を増やしています。一方で、細菌で汚染されたおがくずしか手に入らない場合は、消石灰による消毒が推奨されています。
  2. 乳頭清拭タオル:洗濯後の乳頭清拭タオルを検査したところ、たくさんの細菌が検出されたことがありました(写真)。酪農専用洗剤で洗濯していましたが、注意事項に従っていなかったためです。洗剤の量、水温、すすぎ回数を注意事項の通りにすることで改善しました。
  3. バケットミルカー:ライナー、クロー、フタの裏側から細菌が分離されました。特にクロー内側のこびりついた汚れからは大腸菌や緑膿菌が大量に分離され、このバケットミルカーでの搾乳による大腸菌性乳房炎の発症が疑われる事例がありました。各部品を分解洗浄し、使用後の洗浄殺菌を徹底した結果、細菌は分離されなくなりました。
  4. 治療薬剤:使っている薬が大腸菌群に有効かどうか、常に検査で確認しています。個体ごとでは検査結果が出る時には治療が終わっているか廃用になっています。しかし結果を蓄積し、次の発症牛から〝効かない薬〟の使用をやめていくことで、徐々に〝効かなかった薬〟が効くようになってきます(図2)。有効な薬が増えると治療しやすくなり、薬のトータル使用量も減らすことができます。

 他にもさまざまな対策があります。かかりつけの獣医さんなどと相談しながら乳房炎を予防しましょう。

表 おがくずの細菌検査(数値は1グラムに含まれる細菌数)
写真 乳頭清拭タオルの細菌検査

暑熱期の肥育牛のビタミンAとβカロテン

 夏場の疲労と残暑の追い討ちで、牛も人もより一層体調管理に気をつける必要があります。本項では、黒毛和種肥育牛における暑熱時のビタミンA(以下VA)コントロールについて紹介します。笠間乳肉牛研究室

夏場のVAコントロール

 黒毛和種肥育では肥育中期において、肉質向上のために血中VA濃度を制御するVAコントロールが一般的に行われています。しかし、VAが欠乏した場合、食欲不振や視覚障害、重度の場合には起立不能が引き起こされることから、欠乏を起こさない範囲での適切なコントロールが求められます。では、高温多湿の夏場や残暑が続く時期はその他の季節と同様のVAコントロールで良いのでしょうか。

 肉牛は乳牛と比べると暑さに強いイメージがあるかもしれませんが、肥育牛は体の大きさに対して体表の面積が小さく、体内に蓄積された熱を放出する能力が低いため、暑熱ストレスの影響は決して小さくありません。暑熱ストレスを受けた肉牛は採食量が低下したり生理機能に悪影響が出て、増体が悪くなる可能性が高まります。そして、牛のVA消費量も暑熱ストレスに大きく影響されます。

通常期と暑熱期を比較

図1 暑熱期 (7~8月) と通常期 (5~6月) の血中VA濃度の比較
図2 暑熱期 (7~8月) と通常期 (5~6月) の血中βカロテン濃度の比較

 図1は暑熱期〔7~8月、日平均気温:27.8℃、日平均湿度:75.6%、日平均温湿度指数(以下、THI):78.7〕と通常期(5~6月、日平均気温:20.6℃、日平均湿度:74.3%、平均THI:67.4)において、肥育牛(去勢、平均月齢約19カ月)の血中VA濃度の推移を比較したグラフです。飼料は稲わらを1.5kg/日、VA製剤の含まれていない市販の配合飼料を9~9.5kg/日給与しています。

 通常期において、血中VA濃度が7.1IU/dL低下したのに対し、暑熱期には同じ期間で22.1IU/dL低下しました。暑熱期には飼料摂取量の低下も見られますが、VA効力の低い飼料を給与しているので、飼料摂取による影響はほとんどありません (いずれの時期も飼料からのVA摂取は約1900IU/日)。このことから、暑熱期には暑熱ストレスによってVAの消耗が著しくなっていると考えられました。

 続いて、図2は図1と同じ牛の血中βカロテン濃度の推移です。

 βカロテンは体内でVAに変換される物質であり、主に粗飼料に含まれます。暑熱期の血中βカロテン濃度は通常期よりも低い濃度で推移しました。肥育牛における血中βカロテン濃度の正常値は明らかにされていませんが、暑熱期の牛は通常期の牛よりもVAに変換可能なβカロテンが不足しており、このことも暑熱期に血中VA濃度が低下した原因の1つと考えられました。

早期から補給し、欠乏予防を

 これまで示したデータから、夏場のVAコントロールを他の季節と同じように実施するとVA欠乏となる可能性が高いと考えられます。VAの補給方法としては、元になるβカロテンが多く含まれるアルファルファ等の粗飼料の補給、VA製剤の経口補給あるいは注射が挙げられます。

 特に夏場でも攻めたVAコントロールを実施している場合には、餌の食べ具合や牛の行動を観察し牛の状態を把握すること、定期的に血液検査を実施し、血中VA濃度を把握することが重要です。そのうえで、血中VA濃度が30IU/dLを下回らないように、早いうちから少しずつ補給することでVA欠乏を防ぎましょう。

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