全農 家畜衛生研究所
牛サルモネラ症の対策について
2022.08
近年、牛サルモネラ症の発生が増えています(図1)。治療や検査にかかる費用、死亡事故や抗菌剤投与にともなう生乳の出荷制限など、多額の損害を被る場合もある注意すべき感染症です。今回は病気の概要と一般的な対策について紹介します。
牛サルモネラ症について
①原因菌
牛サルモネラ症は「サルモネラ」という細菌によって引き起こされる感染症です。サルモネラには血清型が多くありますが、特に伝播力と症状が強いサルモネラ・ティフィムリウム(ST)、サルモネラ・ダブリン(SD)、サルモネラ・エンテリティディス(SE)、サルモネラ・コレラエスイス(SC)の4つの血清型は届出伝染病に指定されています。牛において、特にSTとSDによる発生が多発しています。
②症状
6カ月齢以下で多く見られ、若齢であるほど感染しやすく、重症化しやすいことが知られています。主な症状は、食欲不振や発熱、悪臭の強い下痢便や、腸粘膜や血の混ざった下痢便です(写真1)。呼吸器病や関節炎、起立ができない等の神経症状が見られる場合もあります(写真2)。適切な処置をしないと死亡する例も少なくありません。また、成牛でも発生し、発熱や下痢にともなう乳量の急激な減少、早・流産が見られます。
③発生しやすい季節
感染症の発症は、動物の免疫力と病原体の力(量)のバランスで決まります。牛サルモネラ症は暑熱による免疫力低下が起き、気温上昇により菌の環境汚染度が高まる夏~秋にかけて発生が増加します。
対策の基本
①定期的な牛舎の清掃と消毒
環境中の汚染レベルを常に下げておくことが大切です。特に汚染されやすい場所は、分娩房(分娩ストレスによる母牛の排菌による汚染)、哺育舎(発症子牛による汚染)です。牛舎全体の清掃・消毒は当然大切ですが、まずはこの2カ所について重点的に作業することが必要です。牛房全面への石灰塗布はとても効果的です(写真3)。また、持ち歩きができる簡易的な発泡消毒器や石灰塗布機も開発されています(写真4)。
②サルモネラの侵入防止と農場内拡散防止
サルモネラは主に導入牛や野生動物を介して農場に侵入します。導入牛は一定期間単飼して、健康状態のチェック後に牛群に加えましょう。着地検査でサルモネラを保菌していないことを確認できるとより安心です。導入頭数が多く着地検査ができない場合は、環境等から定期モニタリングをすることで、サルモネラ侵入の早期発見・対応ができます(図2)。
ネズミやカラスなどの野生動物がサルモネラを保菌している場合もあります。野生動物の餌になるようなこぼれ餌の掃除や、隠れ場所をなくすための除草・整理整頓、防鳥ネットの設置などが効果的です。
農場内でのサルモネラの伝播の原因として忘れてはならないのは人です。特に、糞便が付着しやすい作業靴は作業後に小まめに洗い、消毒し、清潔に管理しましょう。牛舎間での伝播リスクを減らすため、牛舎専用長靴を用意して徹底管理している農場もあります(写真5)。
③異常牛の早期発見と速やかな隔離
農場でのサルモネラ清浄化対策に要する期間は、発生時のサルモネラ保菌牛の頭数に比例して長くなります。これは、異常牛の発見が遅れて、牛群でサルモネラが広がれば広がるほど、対策期間が長引き被害が大きくなるということです。日々の農場作業の中で、牛を観察する時間を確保することが大切です。1人の担当者だけではなく、複数人でチェックする体制を作っている農場もあります。
④ワクチン
牛サルモネラ症のワクチンは、現在2社から販売されています。しかし、これらのワクチンはサルモネラ・ティフィムリウム(ST)、サルモネラ・ダブリン(SD)に対して効果が期待できるものなので、農場で問題になっている血清型によって使用の判断をしなくてはなりません。また、ワクチンは要指示薬なので、使用については獣医の指示に従ってください。
早期対応の重要性
牛サルモネラ症の対策は、血清型によって変わります。また、近年では一部の抗菌剤が効きにくいサルモネラも確認されています。更に、下痢でなく呼吸器症状が強く出る血清型も報告されているため、一般的な呼吸器病対策で状況が好転せず、検査の結果、サルモネラ症と判明し、初動対策が遅れてしまった事例もあります。従って、疑わしい症状については専門的な検査・確認が大切です。
JA全農家畜衛生研究所クリニックセンターではサルモネラ検査や薬剤感受性試験を実施しています。検査をご希望の際には、管轄のJA・経済連・くみあい飼料・県本部にご相談ください。
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