兄弟二人三脚で規模拡大や6次化に挑戦

2022.10

太田宗一朗さん(右)と卓人さん

 香川県綾川町にあるダム湖のほとりで3代にわたって養豚を営んできた株式会社STPFの太田さん一家。大根と交換した一頭から始まった養豚は今、大きな転換期を迎えています。長年、県の養豚と地域農業をリードしてきた太田進さん(65)から今秋にも長男の宗一朗さん(38)が経営を引き継ぐ予定で、次男の卓人さん(37)との新たな挑戦がスタートします。

 太田さん一家は現在、母豚105頭を飼養し、年間約2600頭を産直豚「讃岐もち豚」として出荷しています。進さんが、母が始めた養豚を受け継ぎ、妻・教子さん(65)と発展させてきました。2007年に法人化し、08年には卓人さん、13年には宗一朗さんが就農。既に息子2人が中心となり、家族4人で飼養しています。

 生産する「讃岐もち豚」は、JA香川県と生産者、JA西日本くみあい飼料株式会社が試行錯誤を重ねてブランド化に成功した産直豚。1995年からコープかがわの店舗を中心に販売され、人気商品として定着しています。その名の通り、やわらかいモチモチとした食感と脂身の甘さが特徴です。現在は県内の4戸からなる「産直豚生産流通部会」が共通の飼養衛生管理基準に基づいて飼養し、安定的に出荷しています。

「脂身も甘くておいしい」と人気の「讃岐もち豚」

父の背中見て、迷いなく就農 前職の販売経験が支えに

 早ければ今秋にも進さんから経営を継承する宗一朗さんは、幼い頃から就農を心に決めていました。「父の背中を見ていたので、就農に迷いはありませんでした」と話す宗一朗さん。大学卒業後は就農を見据えて、コープの精肉コーナーを担当する子会社に就職。接客・販売の経験や当時できた人脈が今に活かせており、「今では前職時代の同僚や上司が大事な取引先となり、仕事がとてもやりやすくなっています」と話します。

 「就農してから、この仕事を絶対やめてはだめだと強く実感しました。もしやめたら消費者が地元産の豚肉を食べられなくなります。新規就農がすぐにできるような業種ではなく、だからこそ、今後も県民の食を支える責任を果たしていきたいと思っています」と力強く話します。

父・進さん(右)と母・教子さん

「スリーセブン方式」導入 働き方改善し、余裕のある経営へ

スリーセブン方式を導入した豚舎①
スリーセブン方式を導入した豚舎②
衛生的に保たれた豚舎内
JA西日本くみあい飼料株式会社が「讃岐もち豚」専用に米粉やパン粉、オリーブ油粕などを配合した飼料

 STPFは2011年に飼養方法を一新し、中四国・近畿で初めて「スリーセブン方式」を導入しました。導入を決断した進さんは「メリットしかなかった」と断言するほど、出荷頭数が増加し、日々の管理も楽になったといいます。

 卓人さんも「導入前後の豚を比べると明らかに違う」ことに驚きました。スリーセブン方式は2週間ほど空舎期間が出るため、この間に豚舎の洗浄と乾燥、消毒を集中的にできるのが特徴です。「清潔な豚舎で育つ豚は健康的で、離乳してからの死産率も減少。母豚を減らしても出荷頭数が増え、更に餌食いが良いので出荷日齢が1カ月ほど早まりました」と話します。宗一朗さんも「豚舎での作業がまとまることで無駄な手間が削減でき、先が見えるような働き方ができるようになりました」とメリットを実感します。

 新しい飼養方法に切り替えたことで、1母豚あたりの年間出荷頭数は3割増の26頭に増加。更に作業の効率化も実現したことで、休日を設けることもできるようになりました。

ダム拡大で農場を移転 10倍規模に拡大目指す

 経営継承やその後の規模拡大を見据える中、大きな課題にも直面しています。ダム湖の拡大にともない、農場を移転しなければならないことが決まっています。町にも協力してもらい、町内での移転先を探す日々。宗一朗さんは「将来的なことを考えると、移転は少しでも早いほうが良いし、移転先では規模拡大を前提にしたい。町や全農、西日本くみあい飼料にも協力してもらい、現在の10倍規模を目指します」と前を向きます。

 就農前に1年間、群馬県にある公益社団法人全国食肉学校で食肉加工について学んだ卓人さんは、将来的にはベーコンなどオリジナル商品の開発・販売を目指しています。「食を通して消費者に幸せを感じてほしい」と夢を語ります。

この記事をシェアする

  • LINEで送る
  • Facebookでシェアする

おすすめ関連記事

他の記事を探す

蓄種別
テーマ別