第12回 全国和牛能力共進会
令和初開催!「和牛新時代 地域かがやく和牛力」41道府県から計438頭が集結
2022.12
和牛の能力や飼養管理技術の向上を目指す第12回全国和牛能力共進会(以下、全共)が10月6日から10日まで、鹿児島県霧島市と南九州市の2会場で開かれた。過去最多の41道府県から参加した生産者が、和牛の改良成果や枝肉の優良性を披露。会場には5日間で約31万人が来場するなど、活気を見せた。
鹿児島全共 同じ県で2回目は史上初
1966年に岡山県で開かれて以来、今大会で12回目となる全共。5年に一度開催され、「和牛のオリンピック」とも呼ばれている。鹿児島県での開催は70年以来2度目で、同一県での2回目開催は初めて。
今回は種牛248頭、肉牛166頭、特別区24頭の計438頭が出品された。「和牛新時代 地域かがやく和牛力」を開催テーマに、これまでの方針を踏襲するとともに新たな改良目標として、おいしさに関係する「脂肪の質」にも着目。脂肪の質の育種価評価の実施を条件に加えるとともに、食味性の向上に寄与する種雄牛の発掘を促すよう年齢制限をした。
「和牛新時代」の幕開け 九州勢が優等賞1席を独占
前大会の宮城全共から第4区(系統雌牛群)を発展的に解消(若雄、繁殖雌牛群に継承)し、従来の第8区(若雄後代検定牛群)を休止した。新たな4区(繁殖雌牛群)は、今大会から雌牛でも地域の特色ある血統を確保するため、母系3代(その牛、母、母方の祖母)が自道府県産であることを出品条件にした。あわせて、オレイン酸など脂肪の質の改良に向けた肉牛区(第7区=脂肪の質評価群)を新設。脂肪交雑に力を入れてきた和牛の改良を、脂肪の量から質に転換させることを目的にした。「和牛新時代」の象徴ともいわれ、消費者ニーズの変化をふまえた。
各区最高位の優等賞1席は、開催地・鹿児島県が、大会の“花形”とされる第6区(総合評価群)を含め、6つの区で獲得。宮崎県が第7区など2つ、大分県が1つの区(2区=若雌の1)で同1席に選ばれた。九州勢が優等賞1席を独占した。
名誉賞は、各出品区の最高位・優等賞1席の中からそれぞれの最高位として選んだ。優れた子牛を作る能力を評価する「種牛の部」では、第4区優等賞1席の鹿児島県、枝肉を審査する「肉牛の部」は、第7区同1席の宮崎県を選んだ。鹿児島県が「種牛の部」で名誉賞を獲得したのは1992年の大分全共以来で、6大会ぶり。宮崎県の「肉牛の部」名誉賞は、2017年の宮城全共に続いて2大会連続となった。
「種牛の部」で名誉賞を獲得した鹿児島県の姶良(あいら)和牛育種組合は、「地域の特色ある牛づくりを(飼いやすさや繁殖能力につながる)種牛性という形で表現していた」と評価された。
「肉牛の部」で名誉賞を獲得した宮崎県は和牛の「おいしさ」の新指標として注目される一価不飽和脂肪酸(MUFA)予測値の平均値が63.4%。同区の全出品群の中で最も高く、「おいしい牛肉の先駆けとなることを期待したい」と講評された。
産地の総合的な成績に当たる「出品団体表彰」は、兵庫、大分、宮崎、鹿児島の各県が受賞した。今大会から順位はつけず、①特別区を除く五つ以上の区に出品②出品した全ての区で上位の「優等賞」を獲得─の基準を満たした全産地を表彰した。
名誉賞
先人が築いた 礎の上に 成り立っている
種牛の部(鹿児島県)
落合新太郎さん:地元開催で「日本一を!」という機運が高く、自分たちもそういう思いでやってきたので、名誉賞を獲得できて嬉しい。序列を決める時、鹿児島の名前が呼ばれるたびに応援席からひと際大きな拍手が聞こえ、鳥肌が立った。
藤山粋さん:前回大会から鹿児島県の出品者ブースがすごく協力的で、地区を超えてやってきた。今回は更に上を目指そうということで、大会関係者も県内の生産者も「チーム鹿児島」として地域が一丸となっていた。改良は一朝一夕ではできず、これまで礎を築いてくださった先人たちの歴史の中に僕たちがいて、和牛の評価はその上に成り立っていると思っている。
栫(かこい)正人さん:今大会が初めての参加。皆で力を合わせて受賞できて本当によかった。自分の力だけではどうすることもできなかった。一方で、ここからが勝負だと思っている。今以上のことを考えないと、次の大会では勝てない。
うまいねと いってもらえる 肉をこれからも
肉牛の部(宮崎県)
佐藤孝輔さん:感無量で、嬉しいという言葉で一杯だ。出品できた牛に感謝。本当にたくさんの仲間たちが支えてくれたので、支えてくれた宮崎県の仲間たちに感謝している。高値で購買してくれた会社にも感謝したい。
馬場幸成さん:このような素晴らしい賞を受賞できて嬉しい。地域の仲間のおかげだ。賞は、生産に携わった全員に贈りたい。それほど助けてもらい、ここまでやって来ることができた。第7区は、食べた時に「おいしい」といってもらえる区だと思っている。皆さんに食べてもらって「おいしい! 宮崎牛は本当にうまいね」といってもらえる肉をこれからも作っていきたい。
神田譲市さん:今回の全共は、「和牛新時代 地域かがやく和牛力」というテーマがあり、それを目標に頑張ってきた。目標通り、日本一をとることができ、これ以上の喜びはない。
【特集】種牛の部 第5区・花の第6区
第5区は、直系3代(直接血のつながった母・娘・孫娘)の雌牛3頭を一群として出品し、3代にわたって長所が受け継がれたかなど改良成果を確認した。鹿児島県が優等賞1席を獲得。「初の全共出品で栄冠を手にした。発育良好で、特に中駆の態様の強さや、3頭の身体の締まりがよく似ている」と評価された。出品した鹿屋市の宮園春雄さんは「出品牛は素質が良く、自然に育てたら良い牛になった。最高の気持ちだ」と喜んだ。
第6区は、同じ種雄牛を父に持つ生体の雌牛(種牛群)4頭と、去勢肥育牛3頭の枝肉(肉牛群)の両方を審査する。種牛・産肉能力を合わせて評価するため、大会の“花形”として重視される区だ。各地域の改良成果を確認することを狙いとしており、鹿児島県がいずれも2位となり、総合成績で初の同区優等賞1席となった。種牛群の審査講評では「輪郭の鮮明さなど、種牛性に優れている」と評価を受け、肉牛群では突出した堂々とした枝肉と交雑脂肪の細やかさが評価された。
【特集】肉牛の部(6~8区)脂肪交雑→脂肪の質を重視
最高値1kg10万円で落札 第7区1席の佐藤さん(宮崎県)
肉牛の部の枝肉セリは、注目の新設区・第7区(脂肪の質評価群)で優等賞1席に輝いた宮崎県高千穂町の佐藤孝輔さんの出品枝肉が、1kg10万円(税別)の過去最高値で落札された。佐藤さんは名誉賞も受賞し、脂肪の質を重視した今大会のテーマ「和牛新時代」の幕開けを印象づけた。
今大会から新設された第7区(脂肪の質評価群)は、脂肪交雑を偏重してきた和牛改良に新たな方向性を示すため、「脂肪の質」を重視。上位入賞には、和牛の風味などに関係するとされるオレイン酸などのMUFAの数値がカギを握るとされる。
最高値となった佐藤さんの出品牛は脂肪の質に優れ、MUFAの予測値は65.1と、第7区トップの数値だった。格付けはA5等級で、BMSNo12、枝肉重量は436.9kg。血統は父「第5安栄」、母の父「勝平正」。
佐藤さんは元JA職員で、結婚を機に25歳で初めて和牛の世界に飛び込んだ。家族や先輩、JAの指導を一生懸命吸収し、牛にストレスを与えない飼養管理に注力してきた。佐藤さんは「畜産を取り巻く環境はとても厳しいが、就農を目指す若い人たちに少しでも夢を与えられたら嬉しい」と前を向く。
第8区1席は鹿児島県 第6区肉牛群序列1位は島根県
第8区(去勢肥育牛)は鹿児島県鹿屋市のうしの中山(中山高司さん)が優等賞1席に輝き、最優秀枝肉賞も受賞した。枝肉は1kg5万6,140円の高値で落札された。また、第6区(総合評価群)の肉牛群序列1位は、島根県が勝ち取った。審査講評で島根県は「脂肪の質が優れており、肉量と肉質を含めた総合的なバランスが良かった」と評価された。
第6区「総合評価群・肉牛群」 序列1位の枝肉(島根県)
提供:公益社団法人全国和牛登録協会
第7区「脂肪の質評価群」優等賞1席の枝肉(宮崎県)
提供:公益社団法人全国和牛登録協会
第8区「去勢肥育牛」優等賞1席の枝肉(鹿児島県)
提供:公益社団法人全国和牛登録協会
【特集】特別区 高校生及び農業大学校
未来の担い手たちが切磋琢磨
鹿児島全共から新たに設けられた高校・農業大学校が対象の特別区。24道県が参加し、未来の担い手の育成と確保、和牛への理解醸成を目的に、学校で生産・飼養した14~20カ月齢未満の雌牛1頭の評価と、生徒・学校による取り組み発表も審査の対象にした。「しえな」(父=華忠良、母の父=福華1、以下同)を出品した鹿児島県立曽於高校が優等賞1席に輝いた。
出品牛の審査講評で「しえな」は「体上線が平直で輪郭が鮮明」との評価を受けた。引き手を務めた同校3年の矢野輝星さんは「とても嬉しい。最初からいうことを聞いてくれて、本番ではきつい姿勢なのに数十分もきれいに立ってくれた。指導してくれたJAの指導員や地域の農家への恩返しができた」と語った。
同2席には宮崎県立小林秀峰高校の出品牛「まひろ」(光圀久、秀正実)、同3席には岩手県立水沢農業高校の「みずのうれいか」(菊福秀、隆之国)が選ばれた。
和牛審査競技会、交流会で他校と交流
7日には、和牛の能力を見極める力を競う「和牛審査競技会」も開催され、60人の農高生、若手後継者らが参加した。全共の審査のように、外見から能力を見る目を養うのが目的。高校生の部で福島県立磐城農業高校2年の岡部美知留さん、農家が対象の女性・後継者の部で群馬県沼田市の武井洋太さんが最優秀賞に輝いた。
また、前日の夜には特別区に出場した高校生、大学校生の歓迎交流会が開かれた。出場校に加え、運営に協力した県内農高生や教員も含め、約220人が参加。鹿児島産の牛肉や豚肉のバーベキューなどに舌鼓を打ち、他校との交流で盛り上がった。
閉会式に初めて首相が出席 次回開催地の北海道がPR
閉会式には岸田文雄首相が出席し、生産者らに名誉賞(内閣総理大臣賞)を授与した。現役の首相が全共の閉会式に出席するのは、今大会が初。閉会後、名誉賞を受賞した種牛を見学し、受賞者らを労った。
次回の全共開催地である北海道の関連団体がブースを設置し、開催をPRした。
産地をPRするブースでは「熱い思いを貫け! 北海道和牛」と書かれたピンク色のタオルなどを販売したほか、訪れた子どもらにリーフレットが入った布製の袋を配布した。また、ホクレンは道産和牛の試食ブースを設置。整理券を買った訪問者に、作りたての和牛入りシチューを振る舞った。
次回北海道全共の開催時期は、2027年9月上旬~10月上旬の5日間を想定。出品頭数は種牛の部で約320頭、肉牛の部で約200頭の計520頭と、17年の宮城全共と同程度を見込む。具体的な開催地や会場は今後決める。
連日大賑わいの全農ブース 来場者へ事業をPR
JA全農は鹿児島全共にブースを出展し、来場した農家に畜産分野での全農の取り組みを直接アピールした。設置されたスケルトンのブースはひと際目を引き、多くの人がブースに訪れた。訪れた農家などは展示を通じて全農の取り組みに理解を示していた。
特設ブースには、大きく分けて6つの展示を通して畜産生産部が取り組んでいる事業を紹介した。中でも配合飼料事業に関する展示では、全農グループが行うトウモロコシなど輸入飼料の調達から農家に届くまでを図や写真を使って説明。調達などを担う系列会社も紹介し、全農が誇る海外ネットワークを訪れた人に伝えた。また、全農が主催する高校生が主役の「和牛甲子園」の紹介ビデオには、多くの高校生たちが足をとめていた。
全農の研究所や、研究所が開発した商品などについても、大小のパネルを使って説明した。研究所の職員もブースで、農家と意見交換をした。
担当者一言コメント
全農畜産生産部 推進・商品開発課 笹渡 翔 さん
私たちは農家の皆さまと直に接する機会として、このような場でPRしたいと思い、ブースを出しました。高校生などこれからの畜産を支える世代にも全農のことを少しでも知ってもらいたい、日本の畜産を盛り上げていけるような関係性を将来にわたって長く続けたいと考えています。
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