JA京都×JA全農京都×JA西日本くみあい飼料
株式会社ミルクファームすぎやま×道の駅「京丹波 味夢の里」
2022.12
元気に育った牛から作る”飲みやすい牛乳”牧場発のモッツァレラチーズが人気
京都府有数の酪農地帯、京丹波町にある株式会社ミルクファームすぎやまは、
ストレスを与えない飼育環境で育った乳牛から飲みやすい牛乳を生産し、
更に、搾りたての生乳を使って独特の食感があり風味の良いモッツァレラチーズを作り販売している。
生産・加工・販売と6次産業化を進め、京都産牛乳の素晴らしさをアピールし、
酪農業発展への道を切り開いている。
“牛ファースト”で飼育「京都農協牛乳」として販売
京丹波町は、京都府の中央部に位置する。丹波高原の山々に囲まれた台地にミルクファームすぎやまの牧場があり、兄で代表取締役社長の杉山裕亮(ゆうすけ)さん(42)と妹で取締役の杉山牧(まき)さん(40)、母で取締役の杉山啓子(けいこ)さん(68)が経営する。
経営規模は経産牛122頭、未経産牛(預託中の育成牛を含む)51頭、哺育牛15頭で、JA京都管内でも規模は大きい。生乳出荷量は年間1300t。牛舎は、フリーストールで乳牛にストレスを与えないように考えられた牛舎構造。搾乳はミルキングパーラー(パラレルパーラー)と24時間対応の自動搾乳ロボットの2方式を取り入れている。餌やり、牛糞の掃除も自動化し、省力化を進めたおかげで、裕亮さんのほか、スタッフ2人の少人数での管理が可能となっている。
フリーストール牛舎は1992年に導入。自動搾乳ロボットは府内でも早く2005年に導入した。「牛によって搾乳方法に好みがあるので、牛舎を分けて2つの方式を使っている。乳牛の状態は搾乳時にセンサーで乳量や乳質の成分変化を判断。データを分析することで1頭1頭の状態を把握し、対応している」と裕亮さんは独自の飼育方法の利点を強調する。
餌は稲発酵粗飼料(WCS)や、先代がグループで考案された指定配合、輸入乾牧草を与えている。生乳はJA全農京都が集乳し、雪印メグミルクに出荷。「京都農協牛乳」などのブランドで販売している。
糞は牛の足元を移動するスクレッパーで集め、さらにバーンクリーナーで集積場に運ぶ。堆肥化は農事組合法人「丹波ユーキ」が行う。丹波ユーキは2011年から耕作放棄地を借り受けて飼料用米を作付けている。同ファームも利用し、WCSとしている。
牧場で生まれた子牛は6カ月間、飼育した後、JA京都・JA全農京都を通じて北海道の牧場に預託する。人工授精を行い、妊娠した状態で戻ってくる。JA京都は「酪農家は、育成の手間が軽減され搾乳に集中できる」と預託のメリットを強調する。裕亮さんは「夏は放牧し、歩き回るので足腰が強くなり丈夫に育つ。牛舎でストレスを抱えずに過ごすので飲みやすい牛乳になる」と話す。
本場イタリアのチーズに感動「おいしさ」で人気商品に
ミルクファームすぎやまの名声を高めているのが、牧さんが作るモッツァレラチーズだ。地元の府立須知高校食品科学科で乳製品の加工技術を学んだ後、北海道ニセコ町にある高橋牧場ミルク工房で2年間、アイスクリームの製造・販売に従事。その後、同新得町の共働学舎新得農場、同幕別町のチーズ工房NEEDSで合わせて10年間、ナチュラルチーズの製造に携わった。2013年に帰郷し、父の明さんの後押しで牧場の倉庫を改造して工房を作り、翌年にチーズづくりと販売がスタートした。
牧場発のチーズは京都では初の取り組み。牧さんの努力に加え、実現できたのは、父の明さんが、常々「酪農を後継者が育つ憧れの職業にする」という考えを持ち、生産面で新しい取り組みを進めてきたためだ。チーズづくりはその取り組みの第2段で、牛乳を生産するだけでなく、加工品の生産・販売を通して消費拡大を図る6次産業化に活路を見ていた。JA京都や地域の酪農家が応援する中でスタートしたミルクファームすぎやまのチーズづくりは順調に発展し、地域の酪農に希望を与える存在となった。そして、今では京丹波町のふるさと納税返礼品としても人気を集めるまでになった。
チーズの魅力について牧さんは「餌によって生乳の質が大きく変わる。味や色も季節によって変わる。でも、ベテランの技術者はそんな変化がありながら、乳酸菌をコントロールして一定の品質のおいしいチーズを作ることができる。そんな技術を活かせる仕事に魅力を感じた」と原点を語る。
主力商品となるモッツァレラチーズを作ろうと思ったのは、研修で訪れたイタリアで水牛のミルクを使った本場のモッツァレラチーズと出合ったこと。「弾力のある歯応え、牛乳の風味が素晴らしく、原料乳の良さを最大限に引き出していた。実家は牧場を経営している。新鮮な生乳を使ってモッツァレラチーズをつくり、作り立てを皆に食べてもらいたいと思った」と話す。1日に使う生乳は100L。そこからチーズが10kgできる。モッツァレラチーズの他、カチョカバロ、さけるチーズ、のむヨーグルトも製造し販売している。
【取材協力店】
道の駅「京丹波 味夢(あじむ)の里」
京都府船井郡京丹波町曽根深シノ65番地1
TEL.0771-89-2310
モッツァレラチーズのおいしさが伝わるにつれ販路は拡大。現在は、道の駅や東京の食料品店で販売するほか、京都や大阪のホテルのレストランなどに納品している。京都縦貫自動車道京丹波パーキングエリアに併設する、道の駅「京丹波 味夢(あじむ)の里」の乳製品コーナーでは、「出来たて」を強調したモッツァレラチーズやカチョカバロなどが並び、牧さんが品出しするそばから売れていく。東京から来た観光客は「出来たてのモッツァレラチーズは珍しい。旅行中なので持ち帰りは難しいので、今夜、ホテルで食べます」と買い求めていた。
道の駅の野間孝史支配人は「牧さんの作るモッツァレラチーズなどフレッシュチーズは道の駅の目玉商品。チーズ購入を目的に訪れる人も多い」と評価している。牧さんは「実家が酪農家だから新鮮な生乳を使ってチーズ作りができる。誇りに思っています。更に技術を磨いていきたい」と意欲的だ。
「京都の酪農守りたい」環境美化部門で最優秀賞
ミルクファームすぎやまは、戦後開拓で入植した祖父が1958年頃政府の貸付制度を利用して乳牛を導入したのが始まり。同じ頃に誕生した牧場と〝酪農団地〟を形成している。
父の明さんは、高校卒業後、3年間北海道の牧場で研修し、21歳の時に戻った。1987年に祖父がリタイヤした後、「杉山牧場」の後を継ぎ、妻の啓子さんと経営を発展させた。裕亮さんは当初、牧場を継ぐ気はなかったが、2006年に就農した。「酪農は分からないことだらけ。ひとつひとつの仕事を覚えるのに必死だった」と当時を振り返る。父と働く中で学んだことは、「牛に過大な負荷をかけない」「牛舎に乳牛を入れすぎない」など〝牛ファースト〟な管理方法。牧場の将来と発展を考え、2014年に「株式会社ミルクファームすぎやま」と法人化し、家計と経営を分離して経営基盤を強化した。2018年秋、父の明さんが他界し(享年66)、裕亮さんは代表取締役となった。
牧場の面積は約6ha。自宅や牛舎、バルククーラー、乾乳舎、チーズ工房、乾牧草倉庫などが間隔をおいて並んでいる。場内は整理・整頓され、草刈りもされていて見通しが良い。そんな畜産環境が評価され、JA京都の2021年度優良生産者表彰で環境美化部門の最優秀賞を受賞した。「牧場を訪れた人が牛乳を飲みたいと思うような環境づくりも必要だ」と裕亮さん。環境に優しい酪農経営のため再生可能エネルギーとして、牛舎の屋根に太陽光発電装置を設置し、電力会社に電気の販売もしている。
「株式会社ミルクファームすぎやま」と「チーズ工房」は来年で10年を迎える。節目となる年を前に、JA京都酪農部会青年部長を務める裕亮さんは「京都の酪農を守りたい。だからこそ少しずつでも規模は拡大したい。今ある施設をフルに活用し、少しずつ飼養頭数や乳量を増やしていきたい」と夢を語る。
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