肉牛 黒毛和種肥育におけるβカロテン補給の影響
2022.12
黒毛和種肥育では、肥育中期において肉質を向上させるためのビタミンA (以下、VA) コントロールが一般的に行われています。今回は、VAとかかわりのあるβカロテンを補給した際の、血液性状及び、肉質への影響をご紹介いたします。
笠間乳肉牛研究室
βカロテンと黒毛和種肥育
βカロテンは体内でVAに変換される物質で、主に粗飼料に含まれます。繁殖牛において血中βカロテン濃度を高めると繁殖機能や受胎成績向上等を示した報告がありますが、肥育牛に対してβカロテンを補給した際の報告は少なく、不明な点が多いのが実情です。
今回の試験では、約18カ月齢の黒毛和種肥育去勢牛10頭を用いて行いました。対照区及び、カロテン区、各区5頭で設定し、両区とも同じ給与体系で飼養し(配合飼料:11.0kg/日、稲わら:1.5kg/日)、カロテン区のみβカロテン製剤100g/日(VAとして24,000IU)を給与しました。
増体成績と血液性状
供試牛の日増体量(DG)、血清中VA及びβカロテン濃度の結果を図1~2に示しました。試験通算DGにおいて、カロテン区が高くなる傾向が見られました(図1)。一方で、29カ月齢時における血清中VA濃度を除きカロテン製剤給与後、カロテン区の血清中VAおよびβカロテン濃度が有意に高くなりました(図2)。カロテン区における通算DGが高くなった理由として、血清中VA濃度が安定し、飼料摂取量が対照区よりも低下しなかったこと(図1)が要因として考えられます。
枝肉成績と肉色
供試牛の枝肉成績、肉質及び肉色の結果を表1に示しました。肉質等級、枝肉重量など、いずれの項目においても、カロテン給与による負の影響は見られませんでした。
一方、皮下脂肪色においてカロテン区がb*、彩度で高値を示しました。肉色におけるb*は黄方向の色度を示しており、b*値が高くなると枝肉成績は低く評価される傾向があります。しかし、肉の色(Beef Color Standard; BCS)、脂肪の色(Beef Fat Standard; BFS)及び、その他の項目において差は見られず、ロースの肉色にも差が見られないため、高含量βカロテン製剤補給により枝肉成績が下がる可能性は低いと考えられます。
以上のことから、高含量βカロテン製剤補給により、枝肉成績に悪影響を及ぼすことなく増体を高められる可能性が示唆されました。近年の飼養管理技術及び育種改良向上等により、上物率が年々増加しています。そのため、攻めたVAコントロールを実施しなくても、ある程度サシが入る可能性があることから、今後は牛に負担がかからない新たなVAコントロールを検討していく必要があります。
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