企業からの転身増頭目指し夫婦で奮闘
2023.02
佐賀県玄海町の澤田年男さん(42)は、サラリーマンから繁殖農家の世界に飛び込みました。妻の望さん(42)と二人三脚で、澤田農場の経営に奮闘する日々。牛にストレスをかけない飼養を心がけながら、増頭を目指しています。現在、就農して2年目の地域の期待の新星とあって、地元のJA関係者らも熱い視線を送っています。
玄海町の丘陵地に位置する澤田農場は、母牛37頭を飼養し、年間25頭の子牛を多久市の県中央家畜市場に出荷しています。牛舎は約892.2m2の開放型で風通しが良く、外光を採り入れて明るいのが特徴です。牛が密にならないようスペースを広く取り、ストレスをかけないよう飼養しています。主に年男さんが育成や牧草収穫、望さんが哺乳と夫婦で分担して取り組んでいます。
年男さんは同町出身。元々は地元企業でサラリーマンをしていましたが、肥育農家の親戚もおり、牛は昔から身近な存在でした。2001年に実家が繁殖農家の望さんと結婚。当初はサラリーマンをしながら餌やりなどの手伝いをしていました。そうした中、義父の徳田常博さん(73)から「高齢になり、このままでは頭数を減らすしかない。繁殖農家になってみないか」と告げられました。「昔から牛との縁は感じていました」と年男さん。悩んだ末、サラリーマンを辞め、繁殖農家になることを決意しました。
ICTを積極導入分娩事故ゼロを実現
年男さんは、唐津市肥前町の繁殖農家のもとで2年間研修を受けました。カメラを使って牛の状態を監視するなど、情報通信技術(ICT)を活用した農場での研修経験から、ICTの有用性を実感。そこで、澤田農場では、分娩室にカメラを1台導入するほか、牛の発情を管理する「牛温恵」、飼養管理をスマートフォンで確認・共有できる「ファームノート」など、ICTを積極的に導入し、経営に活かしています。
機械を活用する一方、「とにかく観察が大事」と年男さん。毎朝、1頭ずつ注意深く観察するのが日課です。望さんと協力して常に牛を見るよう心がけているため、今まで分娩事故は一度も起きていません。
自給飼料として稲発酵粗飼料(WCS)用の稲を栽培するほか、エンバクやイタリアンライグラスを地元の農家に委託して栽培。食いつきを良くするため、粗飼料は5cm程度に裁断して与えています。配合飼料は、ジェイエイ北九州くみあい飼料の「子牛育成用ジャンプ」などが中心です。
初出荷で堂々の80万円牛舎の増築、増頭目指す
初出荷は21年12月。年男さんは「とにかく不安でした」と振り返ります。不安でいっぱいな中、ついた価格は堂々の約80万円(去勢)。澤田農場を担当するJAからつ畜産課の勝山恵太さんは「初めての出荷としてはすごい価格。丁寧に管理しているのが分かります」と話します。
以降も着々と繁殖農家としての腕を磨いてきた年男さん。22年10月の子牛せりでは、最高値となる104万2800円(去勢)を記録しました。年男さんは「(義父から受け継いだ)母牛が良かったのだと思いますが、とても嬉しかったです」と笑顔を見せました。
今後は、増頭に向けて牛舎の増築を計画しています。母牛50頭、子牛42頭が当面の目標で、自給飼料も増やす予定です。望さんは「最初は心配でしたが、今は繁殖農家になって良かったと思っています」と話し、年男さんは「義父や地域の皆さんのおかげで、経営できています。まだまだ勉強中でずっとプレッシャーはありますが、増頭を目指して頑張ります」と力強く話します。県内有数の子牛産地で、地域の新星が着実に歩みを進めています。
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