全農インターナショナルアジア(株)
シンガポールへの輸出市場拡大へ
2023.02
日本産畜産物市場の現状と今後の展開
全農インターナショナルアジア(株)は、シンガポールを中心に日本産農畜産物の輸出販売市場の拡大に加え、豪州の飼料原料の調達など畜産に関する情報収集を行っています。今回は、シンガポールにおける日本産畜産物市場の現状及び今後の展開についてご紹介します。
シンガポール市場の動向
シンガポールの面積は、東京23区とほぼ同程度の約720km2。22年6月時点の人口は563万人で、国民及び永住権所有者が約400万人、外国人が約156万人という内訳です。また人種構成も中華系74%、マレー系14%、インド系9%、その他3%(日本人約3万6千人含む)と多様です。
シンガポールの国民一人あたりのGDP(21年)は、世界第6位の7万2795米ドルと非常に高く、実質GDP成長率も7.6%と消費者の購買力は先進国の中でも高い水準だといえます。
多様な人種が集まるシンガポールでは、中華料理・マレー料理・インド料理等、食の選択肢も多岐にわたります。
日本産の人気も上昇
在シンガポール日本国大使館の調べによると、日本食レストラン数は、21年6月時点で1252店と、13年の888店舗に対し約40%増加しました。商業施設には、日本食レストランのテナントが複数店舗入ることが多く、国民の日常生活に日本食が溶け込んでいるといっても過言ではありません。シンガポールは共働き世帯が多く、外食文化が根強いため、人気が高い日本食レストランは週末のみならず平日も賑わいを見せています。
レストランに加え、日系スーパーの出店数も増加傾向にあり、生鮮食品や加工食品など品揃えが豊富です。日系スーパーの客層は、日本人とともに地元住民が多いことも特徴として挙げられます。またローカルの大手スーパーでも日本産コーナーが設けられ、「メイド・イン・ジャパン」のブランドを評価する消費者も多くなっています。
和牛輸出5年で2.5倍に
日本からシンガポールへの農林水産物の輸出金額(21年)は409億円、うち畜産品が84億円で約2割超を占めています。なかでも牛肉の比率が高く、実際に和牛をアピールするレストランや量販店も多く存在しています。
なお、日本で加工し、輸入する食肉については、シンガポール食品庁(SFA)が認定する食肉処理施設での加工が義務づけられ、承認工場で処理されたものだけが輸入対象となっています。日本国内におけるシンガポール政府承認施設は、牛肉で19カ所、豚肉で9カ所あり(22年7月時点)、全て政府が定める食品規制に基づき処理する必要があります。また、輸送温度帯は航空便での輸送も多いため、冷蔵6割、冷凍4割と冷蔵が主流となっています。
21年の日本産牛肉の日本からシンガポールへの輸出量は、重量ベースで463tに達し、16年の183tに対し2.5倍に伸びました。
日系スーパーや日本食レストランの展開を背景に、日本産和牛は高級食材として広く認知され、市場も一定程度確保されています。
認知度高め、更なる消費拡大へ
シンガポールの日系量販店を中心に、牛・豚をはじめとした日本産畜産物専門の棚が常設されていますが、日本産品と海外産の違いを認知していない地元消費者もいます。そのため、棚に置いているだけでは販売が進まず、調理方法や食べ方もあわせて消費者に提案することが重要です。店頭でプロモーターを立て、消費者に実際に食べて体験してもらう効果が大きいと感じています。
シンガポールでは、上述の食品規制に基づきブロック肉の輸入が主流のため、輸入後にしゃぶしゃぶ、焼肉、ステーキ用など用途に合わせてカットする必要があります。和牛をそれぞれの用途に合ったサイズ、厚さでカットする技術もあわせて浸透させる必要性も感じています。
シンガポールは、食品の90%以上を輸入に依存している背景もあり、穀物肥育の豪州産牛肉との競合も課題の1つです。日本の生産者が丹精込めて育てた日本産和牛ブランドの強みを差別化し、継続してアピールしていく必要があります。
今後は、シンガポール中心部に居住する高所得者層だけでなく、郊外の一般消費者層への販売促進を拡大し、日本産畜産物を実際に食べたことのない消費者に対して日本産ブランドの認知度を高め、更なる販売・消費拡大を目指します。
拠点紹介
全農インターナショナルアジア(株)
全農インターナショナルアジア(株)は、JA全農インターナショナル(株)の最初の子会社として2015年1月に設立。シンガポールを中心に日本産農畜産物・加工食品の販売拡大に取り組んでいる。日本の産地からシンガポール国内の消費者の食卓までつながるサプライチェーンを構築。
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