11月16日 第16回全農養豚セミナー
ハイコープ種豚の能力を最大限引き出す飼養管理

2023.02

 2022年11月16日「第16回全農養豚セミナー」が開催された。特別講演をはじめ、豚熱からの復帰事例等が紹介され、貴重な知見を共有する場となった。

Web PICS※の集計概況

 今回で16回目となった本セミナーには、オンラインを中心に135人が参加した。JA全農畜産生産部の遠藤充史部長は「畜産を取り巻く環境は、長期化する新型コロナによる畜産物需要の低迷・不透明感、家畜疾病の発生、消費の低下、穀物相場の高騰等、大変厳しい状況が続き、国内の生産基盤低下が加速するのではないかと懸念している。本セミナーでは、ハイコープ種豚の飼養管理にかかわる貴重な事例を紹介・共有することで、営農・生産活動の一助となることを強く願っている」と挨拶した。

 2021年Web PICS集計結果(本誌140号掲載)が報告された後、JA全農家畜衛生研究所クリニックセンターの八木勝義センター長が「豚熱・アフリカ豚熱の情勢報告」をテーマに講演。事例発表では、全国の成績優秀な3農場の取り組みが動画で紹介され、活発な質疑応答がされた。

※Web PICS(くみあい養豚生産管理システム):JA全農が提供しているクラウド型養豚生産管理システム。導入、種付け、分娩、哺育、離乳、廃用、へい死、出荷等を入力することで、母豚の繁殖成績や農場全体の成績を把握できる。

Web PICSについて報告する担当者
JA全農畜産生産部 遠藤充史部長

事例紹介

齋藤農場

飼養規模 母豚160頭 一貫経営         
従業員 4名

 2019年11月に豚熱が発生しました。発生後の殺処分などの防疫措置は行政により淡々と進められ、農場として必要な初動対応は特にありませんでした。その後の侵入経路の調査では車両や人、野生動物の出入りを介して侵入した可能性が考えられるとされました。

  農場再開に向けて防疫措置を実施。20年7月(発生から約8カ月後)にハイコープ豚20頭を導入し、再開しました。

 患畜と判定された時は、頭が真っ白になり、言葉になりませんでした。再開までは毎日定時に豚舎の修理、清掃等を行い、営農継続へのモチベーションを維持していました。

 再開してからは、新たにいろいろなことに取り組んでいます。今後は、目の前の課題解決に向けて常に考え、勉強し、一つひとつクリアし、常に上の成績を目指して頑張っていきたいと思っています。無駄のない養豚経営をしていきたいと考えています。

株式会社のだファーム

 種豚の育成期には、繊維質を多く含んだ飼料を給与して、胃袋を鍛えて後々の食いどまりを防ぐ試みを実施しています。導入から初回種付けまでに2回の豚パルボワクチンを接種し、若い豚も多いため、ローソニア対策も重点的に行っています。

 また、分娩後は、子数を確認する日を設定し、全頭確認して、子豚がバラついている場合は、里子を実施しています。

 肥育舎では「オートソーター(肥育豚用の自動体重選別システム)」を導入し、大群で飼養管理、子豚の頃から興味を持たせて慣れさせています。「オートソーター」を通らない豚が出てきた場合は、170日齢前後で出荷しています。

 当社は組合ではじまった組織ですが、2年後に50周年を迎えます。施設の更新等を進め、いずれは100年継続する養豚企業になるべく、皆さんと一緒に頑張っていきたいと思います。

飼養規模 母豚1,000頭 一貫経営及びツーサイト
従業員 28名

JA西日本くみあい飼料 (株)伊予スワインガーデン

飼養規模 母豚1,000頭 一貫経営
従業員 20名

 人工授精(AI)前の母豚の陰部洗浄方法を基本的な部分から見直したところ、実施前に比べ受胎率が5.7%改善。子宮内膜炎の発生頭数は減少し、2022年4~9月期は発生がなくなりました。

 また、初産豚の受胎率の改善を図るため、初産豚のみ3種類のカテーテルで受胎率を比較しました。その他の要因も考えられるため、一概に効果を断定できませんが、当農場の初産ではAbカテーテルが最も効果がありました。受胎率が悪い時にはカテーテルの種類を検討してみるのも面白いかもしれません。

 当農場では切歯断尾・去勢を生後1日目で同日に実施していましたが、切歯は2日目、断尾去勢は4日目に変更。その結果、21日齢時の体重は下がりましたが、事故数と事故率ともに減少しました。

 今後も実証農場としての役割を担って農場運営を行っていきたいと思います。

特別講演

「豚熱・アフリカ豚熱の情勢報告」

JA全農家畜衛生研究所クリニックセンター
八木勝義センター長

 近年の国内における豚熱発生状況は、26年ぶりとなった2018年9月の発生以降、その後も断続的に発生しています。国内の野生イノシシにおいても、豚熱の発生が継続しており、北海道と九州を除く多くの地域で発生。また、近隣国では、豚熱及びアフリカ豚熱の発生が継続しており、我が国への侵入リスクが高い状況が続いています。こうした国内・国際情勢の中、養豚経営の維持・発展には疾病対策が必要不可欠となっています。

 一方、近年ではワクチンを接種した農場でも豚熱が発生しており、発生前に豚熱ウイルス陽性の野生イノシシが農場周囲で確認されています。豚熱発生を防ぐには、ワクチン接種に加え、日頃の飼養衛生管理を徹底し、特にイノシシなどの野生動物の侵入を防ぐことに特段の注力が必要となります。

 イノシシは餌を探し求めて活動します。警戒心が強く、臆病な性格ですが、一度餌場と認識した場合、あらゆる手段を用いて何度も侵入を試みます。柵などの障害物があっても地面から20cm以上の隙間がある場合は隙間をくぐり抜けようとします。鼻の力は非常に強く、50〜70kgのものを動かすことがあるため防護柵は隙間なく設置し、地面に固定する等、掘り返し防止策が必要です。

 イノシシは背の高い草むらなどに体を隠しながら移動します。農場周囲に草が生い茂っていると近くまで寄ってきてしまうため、常時草刈りや整理整頓を行い、農場周囲で体を隠す場所がないようにすると警戒し農場へ近づきにくくなります。

 イノシシ以外の野鳥や小動物の侵入防止には開口部の対策が重要となります。破損箇所はネズミに齧(かじ)られないステンレス等の材質で補修し、粘着シートは定期的に交換しましょう。

 衛生管理区域を設定し、豚熱ウイルスを農場内へ持ち込まないことも重要です。農場外から衛生管理区域に移動する際は手指を消毒し、専用の長靴や作業着に着替えるようにします。石灰や消毒液で農場内を消毒することも対策として有効です。車両で入退場する場合は、動力噴霧器等を用いて消毒しましょう。消毒薬の効き目は徐々に下がっていきますので、毎日の交換を意識して豚熱ウイルス対策をしていくことをお勧めします。

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