「夏場対策のポイント」
暑さに弱い豚を理解し、早め早めの暑熱対策を!
2023.04
夏場は枝肉相場が高くなる時期のため、肥育豚は増体の維持に努めて出荷頭数を確保することが重要です。繁殖豚も、成績の落ち込みをできるだけ抑えることが秋以降の成績安定につながります。海外の事例でも、夏場の発育停滞の影響は経営に与える影響が非常に大きいと認識されていますが、特殊な対策は必要なく、基本的な飼養管理の徹底が鍵を握ると認識されています。本格的な夏が到来する前に、改めて基本を見直してはいかがでしょうか。
養豚研究室
なぜ豚は暑さに弱い?
一番の理由は、汗腺が退化しており、汗をかき、体温を下げる機能が著しく弱いためです。熱ストレスに敏感で、生命を維持するための大事な機能である、温度調整能力が特に弱い動物です。
豚は、暑熱環境において、身体の温度調整のため、表面に近い血管を拡張させて体表に近いところで血液を多く循環させ、体内にたまった熱を体外へ排出しようとします。そのため、消化管の血液の循環量が減少してしまい、腸などの消化管の細胞へ十分な栄養が行きわたらなくなってしまい、栄養の消化吸収能力が非常に弱ってしまいます。
豚からのメッセージは?
豚舎に入って観察すると異変に気がつきます。豚は人間と同じ恒温動物です。つまり、生きるために、身体の体温を維持することが必要な動物です。豚は外部環境の変化に応じて、さまざまな方法で体温調整を行います。暑熱環境では、前出のように体温の上昇のほか、呼吸数の増加、飲水量の増加、水遊び、横臥(おうが)時間の増加などが見られるようになります。
また、出荷された肥育豚では、飼料摂取量の低下が豚肉の保水性の低下につながるため、豚肉品質のクレームなどにつながる可能性が高まります。
どの程度の変化がある?
体温の上昇は、「豚からのシグナル」です。例えば、分娩前後の母豚の直腸温度は、20.5℃の環境下の場合39.0~40.5℃ですが、29.8℃の環境下の場合40.5~41.5℃となり、非常に温度が高くなることが分かります。皮膚の温度について、母豚を21.9℃の環境下に置いた場合、1日の間で29~33℃と変動し、30.1℃の環境下に置いた場合は36~37℃と高温で一定となり、身体の負担となっていることが分かります。
呼吸数も増加します。分娩前後の母豚を20.5℃の環境下に置いた場合、1分あたり25~50回程度ですが、29.8℃の環境下に置いた場合は1分あたり60~120回となり、更に暑熱環境では3倍以上呼吸数が増加します。身体に大きな負担になっていることが分かります。
改善策は?
準備するタイミングを大きく2つに分けて、課題の改善策を一覧でまとめました(表1)。
春から梅雨前の対策
飼料の保管方法や給与方法の工夫、夏場の密飼を防ぐ(表2)ための豚舎の活用方法を事前に想定しておきましょう。ニップルの交換は、給水量の確保にとても大切な対策方法の一つのため(表3)、給水器のメンテナンスも大切です。ファンやインバーター、入気口の点検を実施しておきましょう。
梅雨から夏の対策
豚房への散水や送風など、母豚や雄豚の体温を下げる工夫をしましょう。散水は、蒸散(水の蒸発)効果により豚舎の温度を下げる効果があり、実施しない場合と比較して約5℃下げる効果が期待できます。また、豚への送風は、以下の式で計算することができます。
1m/秒の風速であれば、マイナス4℃分、4m/秒の強さであればマイナス8℃分、体感温度が下がります。しかし、夜は気温が低下するため、日中と同じような送風は実施しないように注意してください。夏場の暑くなる前に、準備をしておきましょう。
参考となる記事(ちくさんクラブ過去号から)
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