JA全農提携・ウィリアム・H・マイナー農業研究所(米国)
酪農の飼養効率改善へ 共同研究の軌跡と成果

2023.04

 JA全農とウィリアム・H・マイナー農業研究所は1996年から業務提携契約を結んでおり、2021年には提携25周年を迎え、これまでに全農職員の教育や乳牛の栄養生理及び飼養管理に関する共同研究を行ってきました。今回は、直近10年間における全農とウィリアム・H・マイナー農業研究所による共同研究の中で、飼料の利用性改善につながる研究をご紹介します。

アメリカのニューヨーク州シェイジーにあるウィリアム・H・マイナー農業研究所

CP含量低減へ 給与水準を検証

 主な研究内容は泌乳牛用飼料中のデンプンや粗タンパク質(Crude Protein : CP、以下CP)含量の低減、または粗飼料中の繊維の消化性に関して研究を行ってきました。これによりトウモロコシや大豆粕などの穀物や、輸入粗飼料の使用量低減及び効率的利用につなげることを目的としていました。


 2000年代後半、アメリカのコーネル大学が開発している飼料設計ソフトのCornell Net Carbohydrate and Protein System(CNCPS)の内容が大幅に改訂され、ルーメン内における炭水化物やタンパク質の利用性について見直しがあり、飼料設計の変更により、飼料を更に効率良く利用できる可能性が出てきました。


 乳牛へのエネルギー供給源として重要な成分はデンプンですが、デンプン源として主に用いられている飼料はトウモロコシです。11年には、価格が高騰していたトウモロコシの使用量を抑制するため、非粗飼料性繊維源であるビートパルプ、ふすま、DDGS等を用いた低デンプン飼料を乳牛に給与した場合の影響を検証しました。対照飼料としてデンプン含量を26%に設定する一方、試験飼料はデンプン含量を21%まで減らしました。その結果、泌乳成績は対照飼料と同程度で、健康状態も差がないことから、デンプン含量を減らしても生産性を維持する事ができると考えられました。


 12~13年では泌乳牛のタンパク質利用に関して研究しました。乳牛は分娩後に体脂肪だけでなく、筋肉なども動員し、エネルギー及びアミノ酸供給に用いますが、過度な体組織の動員は乳牛の代謝疾病発症リスクが高まりますので、十分なタンパク質供給が必要です。そのため乳牛の分娩後から泌乳初期において必要となるCP給与水準について検証しました。この研究の結果、従来必要とされていたCP水準は16~17%程度でしたが、CPを15%程度まで下げても乳牛の生産性が変わらないことを確認しました。

通説を覆した乾乳後期の 代謝タンパク質供給量の検証

 13~15年の研究では、乾乳後期におけるタンパク質供給量レベルの検証を行いました。乾乳後期における代謝タンパク(Metabolizable Protein:MP)供給量は胎児の発育や分娩後の泌乳等、生産性に影響を与えるといわれています。またこの研究が行われた時期には乾乳後期におけるMP供給量についての意見が分かれており、従来の推奨値よりも10~20%高めたほうが分娩後の成績が上がる可能性があるとも言われていました。この研究においてはMP供給量を従来の推奨値よりも30%程度高く設定した処理区と比較しましたが、分娩後の乳量や乾物摂取量の増加量はMP供給量を高めた処理区よりも従来区のほうが高い結果となりました。

粗飼料の消化性を探究し 効率的利用へつなげる研究

 16年以降は粗飼料の消化性を考える上で重要な概念となるuNDFについての研究を行っています。粗飼料中の繊維は消化が早い分画と遅い分画に大きく区分されますが、牛の飼料摂取量はルーメン内で消化されない繊維であるuNDF含量に大きく影響されます。高品質な粗飼料はuNDFが低く、低品質な粗飼料は高くなりますが、飼料設計におけるuNDFとその他栄養素のバランスについてはよく分かっていませんでした。また乳牛へのエネルギー供給を考える上で重要な栄養素は飼料中デンプン含量ですが、TMR中のuNDFとデンプンのバランス、特にルーメン内環境に影響を与えるルーメン内発酵性デンプン(RFS)との関連について検証してきました。結果として、飼料中のuNDFが6%以下の場合、RFSが19%以上になると乳脂肪に対する負の影響が確認されました。これらの事は輸入乾草使用量を低減させた場合にデンプン含量とのバランスをとる事で乳脂肪低下リスクを抑えられる可能性があります。

2022年に新築された育成牛舎。泌乳牛以外にも子牛の発育試験も実施している

 試験は泌乳牛以外にも子牛の発育試験も行っています。またウィリアム・H・マイナー農業研究所はコーネル大学を始めとして米国内外の研究機関とコネクションを持っていることから酪農の研究に関する情報収集が可能となっています。


 米国の酪農畜産情勢や研究についてのお問い合わせにも対応しておりますので、ご質問等ございましたらお近くの経済連及びくみあい飼料担当者までご連絡ください。

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