一生懸命 北海道別海町 浦部牧場
放牧とフリーストール牛舎でゆとりある酪農経営の実現へ

2023.04

 北海道別海町にある浦部牧場は、放牧とフリーストール牛舎を組み合わせた飼養管理で、年間個体乳量約9000kgの成績を実現している。保有する草地は河川に近い湿地帯が多く採草地としては不利であるものの、草地管理の工夫、データやICT機器を活用した効率化・省力化を進め、労働時間を減らし、ゆとりある酪農経営を実現している。

浦部牧場

住所:北海道野付郡別海町

作業従事者:6人

飼養頭数:225頭(経産牛130頭、初妊・育成牛95頭)

農地面積:175ha

浦部雄一さん(中央)と妻・真理子さん(左から2人目)ら家族と従業員

条件不利地を放牧に活用長命連産も実現

 浦部牧場の飼養頭数は約225頭(経産牛約130頭、初妊・育成牛約95頭)で、年間出荷乳量は1166t。牧場の総農地面積は175haで、広大な牧草地の管理を含めて、代表の浦部雄一さん(45)を中心に妻・真理子さん、父・戸良夫さん、母・多恵子さん、従業員2人の6人で経営する。

 放牧を活用する酪農家はJA道東あさひ管内にも多くいるが、頭数が増えると、放牧地の確保や管理、牧柵の整備、牛の移動などの労働負担が増えるため、搾乳牛が80頭を超すと通年舎飼に切り替えることが多い。浦部牧場が保有している草地は河川に近い湿地が多く、積極的に草地更新を行っても台風等で頻繁に冠水し、翌年には雑草が繁茂してしまうため、植生の維持が非常に難しい環境となっている。また、泥濘化により収穫作業機械が圃場に入れないこともあり、収穫作業が制限されてしまうことも珍しくはない。このような条件不利地に対し、機械作業が困難な圃場は放牧地として活用することで有効活用に努めている。

 放牧は5月中旬~10月下旬まで。搾乳後の午前7時半頃~午後3時まで実施。放牧地は日ごとに変更して、草丈が短いうちに採食させることで栄養価や嗜好性の向上を図り、自給飼料を最大限に活用できるよう工夫している。放牧により草や土などやわらかい地面に接する時間が長く、横臥(おうが)も自由にできる環境のため、蹄の負担軽減や血流量の増加に寄与し、蹄病の低減にもつながっている。放牧の実践に加えて牛舎内の環境向上にも取り組むことで、2021年12月時点の平均産次数は2.9産と全道平均(2.4産)より高い数字を実現。5産以上の割合も19%と全道平均(10%)より高く、長命連産の牛群となっている。

 配合飼料など購入飼料費が高騰する中、粗飼料は全量自家産で、飼料費を低減。濃厚飼料はホクレンの配合飼料と道産ビートパルプなどを購入して、TMR(完全混合飼料)として牛に与えている。JAやホクレン担当者とともに牛群観察を行い、給与頭数に見合った採食量になっているかをモニタリングし、個体乳量や乳成分を確認して設計内容を調整している。雄一さんは「自給飼料を最大限活用することで購入飼料の使用量を抑えられ、コストの低減に役立っている」と話す。

30haで毎日場所を変えて放牧
放牧地は毎日変更する
万歩計を導入

木造搾乳舎で牛も快適 哺育牛用に換気装置導入

 浦部牧場は1940年に祖父が今とは別の場所に入植し、70年に父が後を継いだ。75年に80床のフリーストール牛舎を新設するのに合わせて、現在地に移転。60haの農地を借用(後に購入)したほか、離農農地も30 haほど取得し規模を拡大した。雄一さんは高校卒業後、電気関係の会社で働いていたが、2005年に就農。JA道東あさひが後継者向けに設けた「吾久里塾(あぐりじゅく)」やそこで知り合った同年代の酪農後継者らから酪農を学んだ。

 12年頃には搾乳頭数が100頭を超え、生乳出荷量は年約820tまで増産した。しかし、施設容量以上の飼養密度となり、乳房炎の増加や蹄病の発症が多くなっていった。そこで、13年に木造の130床フリーストール牛舎(搾乳舎)を新設した。雄一さんは「木造牛舎は断熱効果と保温、湿度の調整機能に優れていて、快適な牛舎環境が確保されると聞いたために導入した」という。結露がなく、冬は暖かくて糞や水槽の水が凍らない。乳牛の体調維持につながっている。

 旧搾乳牛舎は乾乳舎として利用していたが、17年3月に積雪のため全壊し使用できなくなった。JA担当者と先進的な牧場を視察し、19年2月にフリーバーン方式の乾乳舎を新設。哺育牛も飼養できるよう別スペースを併設した。換気扇から外気を導入し、チューブ状の排気ダクトから新鮮な空気を取り入れる陽圧換気装置を導入。その効果もあり、呼吸器系の疾患にかかることなく、スムーズにJA預託センターへ預け入れることができている。

搾乳牛舎内観(フリーストール牛舎)
搾乳牛舎外観
祖父が入植、開拓し、父が発展させてきた

作業の外部委託でゆとり創出 ICT機器も活用

 浦部牧場では約110ha分の牧草収穫作業を地域のコントラクターに委託。他にも、JA預託事業や町営育成牧場を活用した哺育育成牛の管理外部化など、一部作業を外部に委託することで労働負担を軽減している。家族の労働負担軽減を図ることで、作業や時間にゆとりが生まれ持続可能な酪農経営を実践している。

 搾乳牛舎の新設にあわせて、ICT機器も導入した。搾乳牛には万歩計を装着し繁殖管理精度を向上。さらに、牛群管理ソフトを導入し、勘や経験に頼っていた管理から、ICTを活用することで繁殖に関する情報がデータ化された。「発情予定日」「授精対象牛」など、観察が必要な牛の耳票4桁を搾乳前のミーティング時に伝えるとともに、搾乳中に見える位置にあるホワイトボードに記載して情報の共有と見える化を図っている。雄一さんは「観察が必要な牛を明確に共有することで、発情発見率や繁殖成績の向上が図れた」という。また、餌寄せロボットや除糞スクレイパーも活用。それまでは餌押しが1日5回、除糞作業は1日2回実施し、作業時間は1時間〜1時間30分ほどかかっていた。導入後は作業時間が削減され、個体管理にあてる時間が増え、繁殖管理の精度向上や疾病の早期発見が可能になった。その結果、年間個体乳量は就農当時(05年)の6200kgから、22年には9250kg大幅にアップした。

年間個体乳量1万kgが目標〝明けない夜はない〟と奮闘

 浦部牧場では25年の年間個体乳量目標を1万kgにしている。重点としているのが①放牧酪農の継続(牛の健康増進・長命連産の実現など)②カウコンフォートの重視(快適性に配慮した家畜の飼養管理)だ。この2点を飼養管理の基本として初産牛の能力向上を図る。

 雄一さんは昨年開催された第40回全農酪農経営体験発表会で最優秀賞を受賞した。その際「現在の北海道の酪農情勢は、生乳出荷抑制をはじめ、配合飼料や肥料等の資材価格の高騰、個体販売価格の下落など、非常に厳しい局面を迎えている」と現状を分析。しかし、「明けない夜はない。どのような情勢でも牛を健康に飼うという酪農の本質は変わらない。放牧を中心とした牛のコンディションを一番に考えた長命連産の経営を続けていきたいと思う。10年後も自然とともに環境に配慮した持続可能な酪農経営の実現に向かって家族や地域の仲間、JAやホクレンなど、みんなで力を合わせて頑張っていると思う」と発表した。その気持ちは揺るがず、家族とも共有している。これからも酪農の明るい未来を信じ、家族や仲間とともに日々挑戦を続けていく覚悟だ。

〝明けない夜はない〟どんな情勢でも、牛を健康に飼う酪農の本質を追求したい

牛舎と夕暮れ
陽圧換気装置を導入し、快適に過ごす子牛
ホワイトボードで情報共有
乾乳舎での牛たちの様子

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