鶏伝染性気管支炎ウイルスの変異株(QX-like型)の対策について
2023.04
前号(144号P8~9)では養鶏場で問題となる鶏伝染性気管支炎(以下、IB)の基本的な情報と、現在国内で検出割合が多いJP-Ⅲ型に対して効果を示す新しいIBワクチンをご紹介しました。今回は、近年国内に侵入した新たな変異株とその対策に関する最新の研究を解説します。
【JA全農家畜衛生研究所】
変異株QX-like型 IBウイルスの流行
IBはIBウイルスによる鶏の病気であり、全国の養鶏場に常在化しています。IBウイルスは遺伝子変異が起こりやすい特徴をもつため、日本で初めてIBの発生が確認された1950年代以降、1960年代にはJP-Ⅰ型、1980年代にはJP-Ⅱ型など、時代とともにさまざまな変異株が出現しています。
近年、新しい変異株として『QX-like型(以下、QX-L型)のIBウイルス』が各国で報告されています。この変異株は1990年代に中国で出現し、派生した株が世界的に流行しています(図1)。海外のQX-L型による被害事例では、従来のIBと同様に呼吸器症状、産卵障害及び腎炎など、多様な症状が報告されています。
※ IBウイルスの変異に関連する遺伝子
全農家畜衛生研究所が近年おこなったIBウイルスの疫学調査において、中国や韓国の流行株とS1遺伝子※が非常に類似するQX-L型の国内侵入を初めて明らかにし、さらに今後の研究に向けてQX-L型野外株を分離しました。全農家畜衛生研究所では、QX-L型の全国調査を進めていますが、既に全国的に流行している可能性もあり、早急にQX-L型への有効な対策を見出す必要があると考えられます。
QX-L型に対する IB生「科飼研」JPⅢの有効性
養鶏場におけるIB対策の基本は、適切な飼養衛生管理の徹底と自農場の流行株に効果を示すIBワクチンの使用です。検査によって流行株のS1遺伝子型を把握して、同じS1遺伝子型のIBワクチンを選択することが推奨されます。
遺伝子解析により、QX-L型のS1遺伝子は、現在国内で検出割合が多いJP-Ⅲ型と類似することが明らかとなり、JP-Ⅲ型に対応するIBワクチンがQX-L型に対しても有効ではないかと考えられました。
全農家畜衛生研究所が基礎開発をおこない、㈱科学飼料研究所から販売されているJP-Ⅲ型に対応するIB生ワクチン『IB生「科飼研」JPⅢ』を使用して、国内で分離したQX-L型野外株に対する有効性評価試験を実施しました。本製品と他のS1遺伝子型のIB生ワクチンをそれぞれ点眼投与した鶏に、QX-L型野外株を人為的に感染させたところ、本製品投与区では臓器中のウイルス遺伝子量が有意に減少し(図2)、呼吸器症状の改善も認められました。このことは、本製品が鶏に付与した免疫によって、鶏の体内でQX-L型野外株の増殖が抑制されたことを示しており、本製品がQX-L型野外株に対しても有効であることが確認されました。
国内のQX-L型の流行状況や病原性についてはいまだ不明な点が多く、警戒が必要ですが、本製品が対策の一助として貢献することを期待しています。引き続き、全農家畜衛生研究所では養鶏場でのIB対策に活用できる研究開発と情報発信をおこなってまいります。
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