教えて! 中研
「夏場対策のポイント」
2023.04
※「中研」はJA全農飼料畜産中央研究所の略称です。
肉牛 暑熱の悪影響と飼料からのアプローチ
気象庁の「暖候期予報」によると、2023年6月~8月(3カ月間)の平均気温は、北日本・東日本・西日本で平年並みか高く、沖縄・奄美で、平年並みの予想となっています。本号では、黒毛和種繁殖牛に対する暑熱の悪影響と飼料からのアプローチ、サシバエ対策についてご紹介します。笠間乳肉牛研究室
はじめに
夏場になると、搾乳牛において、繁殖性、乳量及び乳成分が低下することが知られています。この報告はホルスタイン種から得られたデータが中心ですが、黒毛和種繁殖牛においても、暑熱の悪影響を受けていると考えられます。
乳質に対する暑熱の影響
黒毛和種繁殖牛では、異常乳であるアルコール不安定乳を産生することが散見されます(図1)。
この乳汁を飲んだ子牛は白痢を引き起こし、健全性を損うため(岡田ら、1997)、アルコール不安定乳が発生しないように繁殖牛を管理する必要があります。また、アルコール不安定乳の重症化度合いを示す「アルコール不安定度」と子牛の1日平均増体量(DG)の関係性を当室で調査したところ(図2)、子牛の性別にかかわらず、アルコール不安定度と子牛のDGには負の相関関係があり、アルコール不安定乳を飲んでいる子牛は発育性が乏しいことが分かりました。
不安定乳の発生原因
アルコール不安定乳の発生原因として、環境(季節)、疾病発症、ホルモン、飼料給与状態などが関与していると報告されています。当室では、繁殖牛の乳汁のアルコール不安定度に季節の影響があるか調査しました。適温期に飼育した繁殖牛と暑熱期に飼育した繁殖牛の乳汁を分娩後5日間採取してアルコールテストを行い、正常な乳汁(スコア0)を産生した繁殖牛の割合をグラフ化しました(図3)。その結果、暑熱群の乳汁のアルコール不安定乳非発生割合は対照群より低下しました。すなわち、夏場になるとアルコール不安定乳の発生が増加する可能性が示されました。
また、生後5日間の子牛のDGを比較しました(図4)。暑熱群のDGは対照群より低下しました。低下の一因として、繁殖牛の乳汁のアルコール不安定化増加が考えられました。以上の結果から、子牛の健全性を維持し、発育を良好にするためにも、乳質に着目した繁殖牛の管理も重要かもしれません。
飼料内容の見直しを!
繁殖牛では、エネルギー不足やタンパク質過剰の飼料を給与することにより、アルコール不安定乳が発生することがあります。例えば、飼料のTDN(可消化養分総量)充足率がほぼ80%以下で推移した群は、飼料TDN充足率の高かった群よりもアルコール不安定度は高い値を示しました。また、飼料の可消化粗タンパク質充足率が200%を超えるような高値だった時はアルコール不安定度が高い値を示しましたが、可消化粗タンパク質充足率を正常値の範囲内にした時は低い値を示しました(岡田ら、2001)。暑熱時のエネルギー要求量は適温時に比べて高くなりますし、暑熱期はタンパク質代謝異常が生じることが報告されていることから、夏の暑さが本格化する前に飼料内容を見直して今年の夏を乗り切りましょう。
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