LINE登録
多くの酪農家の皆さんにとって乳房炎は悩みのタネです。特に、他の牛へ伝染する黄色ブドウ球菌（SA）による乳房炎の蔓延や、重篤な症状を示す大腸菌性乳房炎の発生により、大きな損害を受けてしまうことも少なくありません。今回は中研で実施している対策をご紹介します。
笠間乳肉牛研究室
牛群に潜むSA乳房炎
黄色ブドウ球菌（Staphylococcus aureus、以下SA）は、人や牛の皮膚にも存在する細菌です。乳房内に感染してしまうと、感染乳汁から搾乳機器、搾乳タオル、搾乳者の手などを介して他の牛に伝染します。このため、SA感染牛を放置してしまうと牛群内での蔓延につながりかねません。
厄介なのが、SA感染牛の乳汁中に含まれる菌数や体細胞数は一定ではないことです。感染していてもブツなどの症状が現れない潜在性乳房炎の場合もあり、搾乳時の観察だけでは感染牛を見逃してしまうことがあります。実際に、過去4年間に中研で発見したSA感染牛のうち3割以上は、発見時点ではブツなどの症状が認められない状態でした。SAの感染拡大を予防するために中研でも対策を実施しています。
SA乳房炎の蔓延を予防する2つの対策
①定期的なバルク乳検査で牛群内の感染状況の把握
②毎月実施している牛群検定で体細胞数の高い牛の乳汁検査
当室では、上記2つの対策を実施して、感染拡大の予防に努めています。牛群内に感染牛がいるかをおおまかに把握するには、「バルク乳検査」が有用です。バルク乳からSAが検出されれば、搾乳牛の中に感染している牛が潜んでいるということが分かります。全頭検査で感染牛を特定できるのが理想的ですが、頭数が多い場合は一斉に検査するのは困難です。そこで、体細胞数が高い牛をピックアップし優先的に検査することで、感染牛の早期特定につなげています。ただし、前述のように検査のタイミングで乳汁中の菌数が少ない場合もあるため、1回の検査で陰性であっても油断はできません。高体細胞数が続く牛では、複数回の検査を検討します。
感染牛が特定された際には、感染牛の搾乳の順番を最後にして、搾乳作業を介した他の牛への感染を予防することが重要です。牛や農場の状況によって治療内容や処置は変わってくるため、かかりつけの獣医などに相談しながらの対応が必要となります。
夏場における大腸菌性乳房炎対策
過去6年間の中研（常時搾乳頭数150頭）の乳房炎発症頭数を月別に集計しました（図1）。7〜10月に大腸菌性乳房炎が増えています。このように、国内の多くの農場と同様、中研でも毎年夏から秋にかけて大腸菌性乳房炎が多発します。乳房炎、特に大腸菌性乳房炎を意識した当室での対策をご紹介します。
大腸菌性乳房炎への4つの対策
①敷料：敷料として使用するオガクズの細菌検査を定期的に実施し（表）、乳房炎原因菌のないオガクズを乳牛舎に使用
上記のほか、牛床が糞尿で汚れた状態では乳房炎になりやすいので床面の管理にも注意が必要です。その対策として当室では、夏はオガクズの投入量を増やしています。なお、細菌で汚染されたオガクズしか手に入らない場合は、消石灰による消毒が推奨されています。
②乳頭清拭タオル：酪農専用洗剤を用いて、洗剤の注意事項通りに洗濯
洗濯後の乳頭清拭タオルを検査したところ、たくさんの細菌が発生したことがありました（写真）。酪農専用洗剤で洗濯していましたが、注意事項に従っていないのが原因でした。洗剤の量、水温、すすぎ回数を注意事項の通りにすることで改善しました。
③バケットミルカー：ライナー、クロー、フタの裏側など、各部品を分解洗浄し、使用後の洗浄殺菌を徹底
ライナー、クロー、フタの裏側を検査したところ、細菌が分離されました。特にクロー内側のこびりついた汚れからは大腸菌や緑膿菌が大量に分離され、このバケットミルカーでの搾乳による大腸菌性乳房炎の発症が疑われる事例がありました。各部品を分解洗浄し、使用後の洗浄殺菌を徹底した結果、細菌は分離されなくなりました。
写真 乳頭清拭タオルの細菌検査
④治療薬剤：農場で使用している治療薬剤が、大腸菌に有効か検査で確認
当室では、使っている薬が大腸菌に有効かどうか常に検査で確認しています。個体ごとでは検査結果が出る時には治療が終わっているか廃用になっています。しかし結果を蓄積し、次の発症牛から効かない薬の使用をやめていくことで、徐々に効かなかった薬が効くようになってきます（図2）。有効な薬が増えると治療しやすくなり、薬のトータル使用量も減らすことができます。
ほかにもさまざまな対策があります。かかりつけの獣医などと相談しながら乳房炎を予防しましょう。
PDF: 649.52 KB
