𠮷﨑畜産×JAながさき県央×ジェイエイ北九州くみあい飼料株式会社×川下精肉店
「長崎和牛」普及に全力 消費者意識し飼料を工夫
2023.10
長崎県川棚町で和牛のルーツの一つとして知られる「長崎和牛」を生産し、地域をけん引する農家がいる。息子と孫の3世代で繁殖・肥育の一貫生産に取り組む𠮷﨑畜産の𠮷﨑忠敏さん(72)だ。地域の生産者とともに研究会を立ち上げ、経営・飼養管理のレベルアップに努める傍ら、「おいしい長崎和牛をみんなに届けたい」との思いからJAながさき県央や、ジェイエイ北九州くみあい飼料、地元の精肉店などと連携し、消費者を意識した和牛生産に力を注いでいる。
DATA
𠮷﨑畜産
所在地:長崎県東彼杵郡川棚町小串郷櫨ノ木川内1798-1 従業員数:5人
飼養頭数:200頭 年間出荷頭数:110頭(子牛80頭、肥育牛30頭)
経営のポイント
●子牛価格の動向をにらみ、繁殖と肥育の飼養頭数を変更。利益の最大化を目指す
●腹づくりのため、牧草や稲わらにビールかすや笹サイレージなどを加えて肉質向上
●地元の精肉店と協力して、消費者が喜ぶ「長崎和牛」の生産を推進
左から妻の美智子さん、𠮷﨑忠敏さん、息子の昌さん、昌さんの妻の陽子さん、孫の菜津香さん
Information
「長崎和牛」の歴史から、共励会・共進会情報、食べられるお店の紹介まで掲載されています。
𠮷﨑畜産
肥育から繁殖への転向 そして繁殖・肥育の一貫生産へ
「母親や祖母に早く楽をさせてあげたい」。その思いから𠮷﨑さんが実家の農業を継いだのが22歳の頃だ。当時は麦や米を栽培し、牛40頭を肥育。就農してまもなく美智子さんと結婚して、息子の昌さんが生まれた。「家族のために少しでも稼ぎたい」と考え、肥育から利益率の高い繁殖経営に切り替えた。繁殖は初めてで当初は子牛が死ぬ事故も多かったが、JAの指導を受けながら、徐々に経営を軌道に乗せた。
1995年に現在の土地に移転。2002年の育成牛舎新設を契機に、飼養頭数を60頭から120頭へ大幅に増やし、07年には肥育牛舎を建設。より経営を安定させるため、繁殖から肥育まで手がける一貫生産体制に切り替えた。
繁殖経営では早期離乳で母牛の負担を軽減し、1年1産を実現している。子牛の飼養管理にもこだわり、人工哺乳を止める3カ月齢から濃厚飼料を増やし、4カ月齢に入ると粗飼料主体に切り替える。肋張(ろくば)りを良くして、体高と伸びの良い牛に育てるためだ。一般的な出荷に比べ1、2カ月早い8カ月齢、体重270kg台で出荷する。
3世代で繁殖・肥育の一貫経営
精肉店が“求める肉”を意識した独自配合飼料
肥育牛は、雌牛にこだわる。𠮷﨑さんは「肉質の良さもあるが、地元の川下精肉店から雌牛の肉を求められていた」と振り返る。
ジェイエイ北九州くみあい飼料などのアドバイスを受け、牧草は電動カッターで6、7cmに細かく切り、オーツや稲わらなど6種類を子牛に与えている。昌さんは「餌をしっかり食い込める腹づくりを意識して、子牛が食べ飽きないようにしている。その結果、丈夫な子牛が育つ」と説明する。
子牛を丈夫で大きな骨格にするため、良質タンパク質飼料「よこづなづくり」と「子牛育成用70」、大豆かすフレークを給与する。母牛には粗飼料が多く配合された「マザーファイバー」を与えている。また肥育牛は、腸内環境を意識して発酵飼料を与え、ビールかすやきな粉、ごま油かすなどを給与して、味や風味、肉質を高めることにも余念がない。今夏は増体を目的に竹を原料にした笹サイレージを与えたところ、食い込みが良く、夏バテ防止にも効果があったという。
𠮷﨑さんは「精肉店が欲しがる歩留まりの良い肉をイメージして牛を育てている。腰から後ろ、腿の部分などが大きく発達している部位は特に評価してくれていると思う」と自信を見せる。
川下精肉店 𠮷﨑さんの雌牛が人気
川下精肉店は客がひっきりなしに訪れる人気店で、𠮷﨑さんなど川棚町内をはじめ、隣接する東彼杵町、波佐見町産の牛肉を中心に仕入れている。代表の川下幸介さん(74)は、𠮷﨑さんと同世代で古くからのつきあい。雌の肉を求める理由について、「肉のうま味は去勢よりもあり、風味も良く、肉張りも良い」と話す。その上で、「去勢肥育が多い中、𠮷﨑さんが雌牛を育ててくれるので助かる」と喜ぶ。
味の良さに加えて、地元の人が作っていることに愛着を持つお客さまも少なくない。中には、𠮷﨑さんの牛肉にほれ込み、隣近所に勧めるためにブロック単位で購入する人もいるという。
川下さんの次男の茂俊さん(39)が長崎市内で2店舗経営する炭火焼肉の店「いせ家」では、𠮷﨑さんの牛も含めた「長崎和牛」を提供している。
川下精肉店
●精肉・関連加工品の小売り、牛・豚・鶏の肉など常時約30品を扱う
●霜降りや赤身など、お客の要望に合わせた肉を販売しているため、さまざまな年齢層の人々が足を運ぶ
●「長崎和牛」などを使ったメンチカツやコロッケなどは、週末の土・日の昼過ぎにほぼ売り切れる人気ぶり
すき焼きやしゃぶしゃぶ、
ステーキ、バーベキュー用など、
幅広いラインナップがそろう
大人気のメンチカツ
良質で口どけのよい脂と柔らかい肉質を持つ雌牛にこだわって提供しています
Information
地域全体の肉牛経営のレベルアップに注力
𠮷﨑さんは自らの経営にとどまらず、地域全体の繁殖牛経営にも目を向ける。県内初の繁殖牛多頭飼育研究会として08年に発足した「モー進会」の発起人代表を務め、「県央地域全体でレベルアップして、消費者のニーズに合った子牛づくりに取り組んでいる」と活動に力を注ぐ。
「モー進会」は現在、JA管内の生産者20人で構成。毎年、牛の健康管理が難しい夏と冬に巡回指導を行い、𠮷﨑さんは、生産者やジェイエイ北九州くみあい飼料、JAながさき県央の職員らと共に畜舎を視察し、母牛の状態やミネラル、水、粗飼料給与を重点的に見る。
JAの堤章畜産部長は「𠮷﨑さんに育ててもらったという生産者も多い」と、𠮷﨑さんの活躍をたたえる。
現在、𠮷﨑さんに加え、妻の美智子さん(72)、息子の昌さん(48)と妻の陽子さん(48)、孫の菜津香さん(21)の計5人の家族経営だが、孫の蒼太さん(19)も諫早市の長崎県立農業大学校で農業経営を学んでおり、卒業後に就農する見通しだ。「過去よりも今、そして未来を良くしたい」と𠮷﨑さんは目を輝かせる。
Comment
●ジェイエイ北九州くみあい飼料 乙内壱成さん
モー進会で生産者の皆さんと意見交換する際に、𠮷﨑さんの話はすごく参考になります。
●JAながさき県央 北部営農センター 岩元裕貴畜産課長
𠮷﨑さんのご家族には地域の生産者を引っ張っていただいている。
●JAながさき県央 堤章畜産部長
JAとしても𠮷﨑さんとともに地元の和牛農家全体のレベルアップに貢献したい。
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