全農ヘイ株式会社 アメリカ合衆国ワシントン州パスコ
米国から日本へ粗飼料を安定供給 全農ヘイの城谷さん
2023.10
コロンビア盆地南部に位置し、輸出向けアルファルファやチモシーの産地としても注目されている米国北西部ワシントン州パスコに設立された全農ヘイ株式会社(以下、ZHI)。安全・安心な牧草製品の安定供給を目指し、日々邁進しているのが2023年4月から駐在している城谷悦啓さんです。今回は、城谷さんの全農ヘイでのお仕事と現地情勢の一部をご紹介します。
全農ヘイ(ZHI) & 海外駐在員のご紹介
全農ヘイ株式会社
ZHIは、北米における粗飼料の供給拠点・基地として、日本へ安全・安心な牧草製品を安定供給することを目的に1994年に設立。日本の需要構造の変化に応じて牧草製品の幅を広げ、供給体制を強化してきました。日本の養牛生産現場の知見を活かした新しい事業展開や商品展開を心がけていることが、他のサプライヤーとは違う、JAグループならではの特徴です。JAグループの一員であるZHIをよろしくお願いします。
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1994年
設立 ヘイキューブ製造・供給拠点として活躍
1998年
ベール乾牧草の製造及び供給をスタート
2005年
全農グレインの完全子会社化(海外機構の再編の一環)
私が入会した2005年頃は、他のサプライヤーや日本の同業他社から、ZHIは新参者として扱われ、悔しい思いをしたことを覚えています。その後も、JAグループの方々に激励され、歴代の全農の担当者に伴送してもらい、一緒にさまざまな経験を積んできて、今ではZHIは立派に成人し、JAグループのために安定した供給を行うことができるようになりました。
(城谷悦啓さん)
2011年
新型プレス機を導入し、チモシー供給を強化
2013年
安定集荷と品質維持を目指し、5万t規模の全米最大級となる保管倉庫が完成
2015年
アリゾナで世界需要の拡大に向けた圃場事業を開始
マザーネイチャー(母なる大自然)は厳しく、その後撤退し、原点回帰(日本需要の深掘りに注力)
2020年
キューブ施設における集塵機を強化
小麦ストローキューブやチモシーミックスキューブの本格供給を開始
マーチャンダイジングマネージャー 城谷悦啓(じょうや よしひろ)さん
2005年に入会後、単味や配合飼料の推進及び県担当業務を経験。10年に発生した宮崎県口蹄疫の対応、復興を経て、本所粗飼料担当に着任。19年からは農林水産省へ出向し、政策立案を担当した。21年に再び本所粗飼料課へ配属後、今年から米国へ赴任。
コメント
日本の畜産生産現場から北米の飼料生産現場まで、JAグループのすさまじく長いサプライチェーンを目の当たりにしました。先人たちの偉業に負けないように精進してまいります。
1 粗飼料の産地情勢
2022年以前、アメリカ西海岸では干ばつ傾向が続いていましたが、23年と22年の乾牧草の収穫期直前(6月末)の状況を比較すると、西海岸の干ばつ傾向が改善されているのが良く分かります(図1)。特に23年は、コロンビア盆地の水源となるロッキー山脈では十分な積雪がありました。
PNW産アルファルファ
パシフィック・ノースウエスト(PNW)産アルファルファは、7月時点で3番刈りが収穫されているところです。5月末頃から始まった1番刈りでは、収穫途中に雨の予報があり、前半に収穫できた貨物は良品として取引されましたが、雨あたり品や雨を避けて収穫した貨物は刈り遅れ品等の低級品も発生しました。2番刈りは順調に収穫が進み、良品ができましたが、輸出事業者や国内酪農家からの需要は低く、昨年産よりも大幅に値段を下げている状況です。
8月上旬に3番刈りが終わり、9月上旬に4番刈りが予定されています。昨年までの干ばつの影響か、以前よりも山火事(写真)が多くなっており、毎月のように山火事の風景を見ます。山火事による煙が刈り取り後の牧草の乾燥工程を遅らせ、良品を少なくしている要因と考えられています。
チモシー
チモシーは、エレンズバーグやコロンビアベースンの灌漑(かんがい)エリアの圃場(ほ じょう)で6月の収穫時に散発的に発生した雨の影響で、良品は限定的と見込まれています。複数のサプライヤーに聞き取りをしたところ、良品は20~30%程度で、1番刈りアルファルファ同様に軽い雨あたり品や刈り遅れ品が多く発生しており、50%以上が低品質になっていると予想されます。取引価格に満足しない生産者も多く、2番刈りは行わずに、他の作物へ作付けを変更する圃場も多く見られています。
2 粗飼料の世界需要
一方、需要面では近年、米国産乾牧草の需要が拡大していた中国で、乳価低迷による需要減少、旧穀の価格高騰と在庫過多により、荷動きが鈍化しています。また、大手の中東需要ではCP 22%以上の上級品に限定した集荷しか行わない傾向にあり、米国及び輸入国の港には多くの在庫が残っている状況です(図2)。
日本でも、昨年までの飼料価格高騰により、記録的な輸入量の減少が見られており(図3)、日本からの需要は低調に推移しています。
3 まとめ
米国牧草生産の現場では、今なお続くインフレの影響で、人件費から機械のパーツや輸送費まで値上げが進んでいます。需要低迷による値下げ傾向に対して、コスト割れするぐらいなら、と他の作物へ転作する動きも見られています。今年は牧草生産者の生産意欲と需要減退のバランスが非常に難しい年になりそうです。
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