第17回全農養豚セミナー/ハイコープ種豚の能力を最大限に引き出す飼養管理
2024.01
JA全農畜産生産部は2023年11月17日、「第17回養豚セミナー」を東京都内で開催した。ハイコープ種豚の育種改良方針や飼養管理、豚熱対策などを紹介し、先進農家の発表を通じて優良事例を共有。能力を最大限引き出すための方策を探った。
今回で17回目を迎えた本セミナーは、実開催とオンラインの併催となった。前年よりも27名多い、174名が参加。参加者の内、63名が会場で受講し、コロナ発生後では最大の参加人数となった。主催したJA全農畜産生産部の遠藤充史部長は「テーマは昨年度に引き続き、ハイコープ種豚の能力を最大限に引き出す飼養管理とした。事業環境が目まぐるしく変化する中、ハイコープ種豚の飼養管理に関する貴重な事例を紹介・共有することが営農活動の一助になることと強く思っている」とあいさつした。
続いて、全農畜産生産部 推進・商品開発課の児玉博士より2022年Web PICSの集計結果が報告された(146号掲載)後、飼料畜産中央研究所、家畜衛生研究所、岩手県の農事組合法人ジョイフルファーム八幡平、宮崎県経済農業協同組合連合会が、優良事例や取り組みを発表した。
146号Web PICS集計結果
※Web PICS(くみあい養豚生産管理システム):JA全農が提供しているクラウド型養豚生産管理システム。導入、種付け、分娩、哺育、離乳、廃用、へい死、出荷等を入力することで、母豚の繁殖成績や農場全体の成績を把握できる。
ハイコープ種豚の育種改良状況
生産者の利益を最大化するため、ハイコープ種豚の育種改良方針として、①多くの子豚を産み、育てられる種豚②少ない餌で早く大きく育つ肉豚(飼料要求率の改善)③上物規格に収まる肉豚④消費者に評価される肉豚―の4点を重視して改良を行っている。
ただし、①については肉豚出荷頭数が同じでも産子数が多ければその分無駄な費用が多くなってしまうため、丈夫な子豚を産む母豚を選定している。また、以前の雌系品種の育種改良方針は総産子数を増やすことを重視していたが、現在は哺育時の事故死を少なくし、離乳頭数を増やすことを目標としている。上士幌種豚育種研究室では、独自の指標を用いて効率的に離乳頭数の改良を実施している。
②は個体ごとに日々の飼料摂取量の測定が必要になるが、体重、飼料摂取量を自動で測定できるシステムを活用している。③は背脂肪厚を測定して上物規格の肉豚を選定している。その中でも筋肉内脂肪含量(IMF)が高く、背脂肪が厚くない豚を選定することによって、背脂肪層を変えずにIMFを維持・改善することに成功している。
出荷時体重を増量した場合の発育成績と枝肉成績
直近の枝肉の情勢は、農水省が定める家畜改良増殖法に対応する形で、2023年1月1日に豚枝肉格付規格の改正が行われ、各等級の重量範囲が上限・下限ともに3kg引き上げとなった。旧格付けで見た場合、18年から22年の平均が上中物範囲内77.9%に対し、新格付けとなった23年1~6月の上中物範囲内は80.4%となった。格付規格の変更以降、極上、上に含まれる枝肉の割合は全国的に増加している。一方、平均枝肉重量は平均で0.52kgの増量となっており、変更幅の3kgを下回った。
養豚研究室にてハイコープ三元豚の経済性試算をしたところ、枝肉重量が上物規格の上限に近い生体重118~121kgにおいて、最も経済性が優れる試算となった。飼料要求率もほぼ変わらず、枝肉重量を増量することによる経済的なメリットが確認された。
豚熱の発生防止に向けて
2018年9月の岐阜県での初発以降、豚熱の発生は20都県で計89事例、殺処分頭数は36.8万頭となり、ワクチン接種開始以降もワクチン接種農場での発生が継続しており、23年度も7月に兵庫県のワクチン接種農場で発生している。
佐賀県でも23年8月に豚熱が発生したが、ウイルスの由来として山口県内のイノシシから検出されたウイルスに最も近縁だったことが確認された。その後、九州では豚熱感染イノシシは確認されておらず、イノシシ間の感染ではなく人(車・物)を介して移動した可能性が高いことが分かった。
豚熱の発生を抑制するためには、対策を日々行う必要がある。防護柵などの環境整備や、豚舎に持ち込む靴・服・手袋・資材は専用のものを使用し、都度交換することが重要となる。
初期導入から6年間 成績向上のためのポイント
成績維持・向上のためのポイントとして、①基本に忠実な作業の徹底②徹底した現状データの把握と分析③多産系ハイコープSPF豚の能力に合わせた管理④八幡平ポークグループ内での情報共有―の4点に意識して取り組んだ。
直近4年の繁殖成績を比較すると、2020年に13.4%だった死産率は23年1~9月期には11.4%と2ポイント改善。肥育成績は背脂肪が薄くなり、20年に68.2%だった上物率は23年1~9月期に72.5%と上昇した。
多産系ハイコープSPF豚への対応としては、①発情再帰の早期化②適正な淘汰産歴③生時体重のコントロール(生時体重が大きくなりすぎない管理)④授乳期飼料の強化⑤初産成績の把握―の5本柱の対応を行った。
生産成績を向上させるということは、進化しているハイコープSPF豚の能力を最大限に引き出すということ、その開発された能力に合わせて管理できるように対応していくことと考え、取り組んできた。
新規農場の立ち上げと飼養管理方式の特徴
養豚先進国であるデンマークを優良事例とし、飼料効率、種豚能力等の検討を進め、「圧倒的な生産性」を「長期間誰でも」実現できるモデル農場の建設を目指したJAグループ養豚事業ミライ研究プロジェクトにより、2023年に綾繁殖農場を新設した。
飼養頭数は母豚1,000頭規模で豚舎は糞尿分離のウインドウレス方式を採用し、9名で運用している。農場の特徴として、スリーセブン方式を採用し、SKOV換気システムで温度・湿度・CO2を管理。分娩舎(1棟)から子豚舎(2棟)、繁殖舎(2棟)それぞれの豚舎間に屋根付き渡り廊下を設置した。
繁殖舎の交配頭数/グループは140頭、分娩舎の分娩腹数/グループ144腹(GP:7腹、PS137腹)、子豚舎はオールプラスチックスノコを採用し、腐食に強く耐久性に優れるポリプロピレン製中空パネル間仕切りを使用している。
繁殖成績は死産率4.88%、離乳頭数は一腹あたり11.35頭、子豚出荷成績は平均日齢70.9日、平均体重約31kgと、繁殖、子豚どちらも優良な成績を出せている。
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