乾乳牛への第一胃内保護ナイアシン給与が分娩後の生産性に及ぼす影響
2024.04
暑熱環境は家畜の恒温性に直接作用するため、生産性低下の要因とされてきました。乳用牛では飼料摂取量および泌乳量の減少や繁殖性の低下、肉用牛では飼料摂取量の減少や発育停滞が生じると報告されています。株式会社科学飼料研究所が1月に販売したストレス対策サプリメント「はつらつモウラック」は、暑熱対策としても利用できます。その効果についてご紹介します。
笠間乳肉牛研究室
飼料による暑熱対策
暑熱対策の基本は送風機などの通気によるクーリングです。トンネル換気や微細ミストなどの環境対策をしても効果が得られない場合は、飼料による暑熱への悪影響の低減化が期待できます。
「はつらつモウラック」には、分解されない保護処方をした、ビタミンB群に属するナイアシンが含まれています。ナイアシンは補酵素としての作用以外に、皮膚の毛細血管拡張に働き、皮膚からの体温放出が促進されることで気温上昇に伴う体温上昇を抑えるとされています。泌乳牛への補給効果の報告が多く、0.5~0.8℃の範囲で体温が低下するようで、中には乳量が増加した報告もあります。
乳用牛の場合、泌乳期だけでなく、乾乳期に受けた暑熱の影響が泌乳期の生産性低下につながります。本試験では、暑熱期のホルスタイン種乾乳牛における第一胃内保護ナイアシン(以下、RPN)の給与が分娩後の生産性に及ぼす影響を調査しました。
材料および試験方法
分娩予定4週前の平均産次約2.0産のホルスタイン種乾乳牛22頭を供試しました。平均産次、月齢およびRPN補給の有無で供試牛を2区(対照区・RPN区)に割り当てました。RPN区にはRPN50g/日/頭(ナイアシンとして20g/日/頭)を朝夕にトップドレス(餌に振りかける手法)で等分給与しました(表4)。
試験期間は分娩前4週から分娩後8週までとし、分娩前4週から分娩後4週までをRPN補給期間としました。0、1、2、3、4、8週の乳汁を採取しました(図1)。
表4 材料と試験方法
結果 乳量および乳質向上
(1)試験期間中の温湿度指数
各期間の1日の平均温湿度指数(以下、THI)を表1に示しました。両区ともに分娩前のTHIが最も高く、分娩後5〜8週のTHIが最も低くなりました。暑熱ストレスの指標とするTHI68を分娩前から分娩4週目までは上回りましたが、分娩5週目以降は暑熱ストレスの指標を下回りました。
(2)初乳産生量および初乳質
分娩後24時間の初乳の産生量を測定しました。初乳の産生量は乾乳期に4週間RPNを補給すると増加しました(図2)。
次に、子牛の免疫獲得に重要な役割を果たす初乳IgGについて、初乳中濃度と産生量を測定しました(図3)。初乳中IgGの濃度はRPN補給の影響を受けませんでした。
一方、初乳中IgGの産生量は乾乳期における4週間のRPN補給により増加しました。これらの結果から、乾乳牛に対する4週間のRPN補給は、初乳産生量およびIgG産生量を増加させますが、初乳の産生量が多いとその分、初乳成分が希釈されるため、IgG濃度換算では明瞭な差にならないことが分かりました。
初乳におけるその他の成分について、RPN補給は脂肪割合、無脂固形割合、蛋白割合に影響しませんでしたが、産生量に換算した脂肪産生量、無脂固形産生量、蛋白産生量はRPN補給により増加しました(表2)。
(3)子牛の生時体重
子牛の生時体重を測定しました(表5)。両区とも雄のほうが雌より生時体重が大きい結果になりましたが、乾乳牛へのRPN補給の影響は受けませんでした。すなわち、乾乳牛にRPN補給を行っても、生まれるまでの胎児の発育には悪影響を及ぼしませんでした。
表5 子牛の生時体重
(4)乳量および乳成分
分娩後8週間の乳量および乳成分を比較しました(表3)。分娩前後4週間のRPN補給は乳量を増加させました。常乳における脂肪割合、無脂固形割合、蛋白割合について区間差は確認できませんでしたが、産生量に換算した脂肪産生量、無脂固形産生量、蛋白産生量はRPN補給により増加しました。
(5)治療日数
分娩前4週から分娩後8週までの間の平均治療日数を図4に示しました。RPN区の平均治療日数は対照区より低い値を示しました。RPN補給は移行期による悪影響を低減し、その結果として健全性が向上したと考えられます。
第一胃内保護ナイアシン給与で乳量および乳質を向上
分娩前後の第一胃内保護ナイアシン給与は初乳・常乳にかかわらず、乳量および乳質を向上させる可能性が示されました。第一胃内保護ナイアシンを配合した「はつらつモウラック」で今年の暑い夏を乗り切ってはいかがでしょうか?
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