Dr.ジーアのMyカルテ JA全農 家畜衛生研究所
牛ウイルス性下痢(BVD)対策について
2024.04
牛ウイルス性下痢(以下、BVD)は多様な症状を示し、届出伝染病に指定されています。BVD感染による受胎率の低下や酪農場での生産乳量の減少、二次感染による症状の重篤化は、畜産経営に大きな損失をもたらします。
1 BVDの症状と持続感染牛の発生
ポイント 妊娠牛がBVDに感染しないよう予防する
多くの場合、症状は一過性で、発熱や下痢、鼻汁、泌乳量の低下などの症状が現れますが、体内で抗体を産生してウイルスを排除し2〜3週間で回復します。しかし、細菌や他のウイルスとの混合感染があると重篤化し、症状が長期間にわたることがあります。強毒株の場合は、血便、発熱、食欲廃絶、肺炎等の症状を示し、死亡することもあります。
妊娠牛が感染すると、繁殖障害(流産、胎子奇形)が起こりますが、胎子の免疫機能が形成される胎齢30〜150日に感染すると、胎子体内で抗体が作られず、唾液や鼻汁、糞便、尿、乳汁、精液等から多量のウイルスを排泄し続ける持続感染牛(以下、PI牛)として生まれます。
PI牛は一見健康に見えることも多く、気づかない間にBVD感染を広げる原因となります。また、PI牛の治療法はなく、PI牛からはPI牛が生まれます。発症率は低いですが、体内でウイルスが変異すると粘膜病となり、食欲の廃絶、元気消失、水様性下痢、血便などの重篤な症状が出て100%死亡します。
2 BVDの予防対策
ポイント 検査の徹底で農場内からBVDウイルスを排除
最も効果的な対策は、農場内にPI牛がいるかを確認し、いた場合には淘汰して農場内からBVDウイルスを排除することです。全頭検査の際には、個体ごとの血液や鼻汁スワブからの検査の他、酪農場ではバルク乳を用いたスクリーニング検査も可能です。
次に、農場内にPI牛を入れないことです。導入牛は、検査でPI牛でないことが確認できるまで、農場の牛と接触しないよう隔離して管理しましょう。妊娠牛を導入する場合、妊娠牛が健康牛であっても、導入前にBVDに感染していた場合、PI牛が生まれる可能性があるので、子牛も検査しましょう。また、複数の農場から牛が集まる預託育成牧場などではPI牛から感染が広まる可能性もあるので注意が必要です。
感染予防及びPI牛の産出リスク低減のためには、ワクチン接種が有効です。獣医師の指導・注意を厳守し接種しましょう。また、初生子牛には抗体が含まれる免疫母牛の初乳や初乳製剤をしっかり飲ませることも大切です。
3 ケーススタディ(事例)
BVDによる経済的損失
事例1(農場概要:子牛育生農場、飼養頭数約350頭)
主に近隣の酪農家から乳雄・F1子牛を導入している農場で、PI牛であることに全く気づかずに3日間隔で2頭を導入。2頭のうち1頭は哺乳舎、もう1頭は離乳舎に入り、その後、哺育舎での治療頭数や抗菌剤費用が増えた(図1)。
哺育舎にいた他の4頭でもBVDウイルスを検出。遺伝子解析の結果、4頭は同じ哺育舎のPI牛からではなく、離乳舎に導入したPI牛のBVDウイルス株に感染していたことが判明した。
本事例では、PI牛の導入が治療頭数増加につながった。また、牛舎間で感染が拡大していたことから、BVD対策においても飼養衛生管理基準に基づく日常の衛生対策が大切で、特に日齢が若い牛は感染しやすいため注意が必要だ。
事例2(農場概要:子牛育生農場、飼養頭数約150頭)
近隣の酪農場からET産子(黒毛和種、3日齢)を導入したところ、呼吸器症状を示す子牛が増え、5頭が死亡した。検査により、導入牛がPI牛であること、および農場内でのBVD感染が判明したため、PI牛の摘発淘汰、消毒強化等によるハッチ間での伝播防止、ワクチン接種の徹底などのBVD対策を実施した。BVD感染が落ち着くまでの約1年間で11頭もの子牛が肺炎で死亡。BVDとマイコプラズマ・ボビス(以下、M.bovis)との混合感染により肺炎症状が重篤化したと考えられた。
BVD沈静化後はM.bovis感染は断続的に発生したものの、中耳炎や軽度の呼吸器症状が散発するのみで重篤化する牛は認められず、肺炎による死亡事故はなくなった。
4 海外や日本での発生状況
欧州諸国では国家的なBVD清浄化対策が進んでいます。例えばドイツでは、PI牛の摘発淘汰とワクチン接種、バイオセキュリティ強化(BVD陰性農場の認定および陽性農場からの牛の移動制限)など約10年間の対策により2023年に清浄化を達成しました。日本では、2016年に農水省が防疫対策ガイドラインを示しました。啓発活動や検査強化とPI牛の摘発・淘汰の推進により、ここ数年の届出件数は減少傾向ですが、毎年100〜400頭ほど全国各地で発生しています(表1)。
5 BVD対策の実施について
BVDはしっかりとした対策を実施すれば防げる疾病です。JA全農家畜衛生研究所クリニックセンターでは、血液や鼻汁、乳汁、糞便からのPCR検査を実施しています。また、遺伝子型のシークエンス解析も可能です。ワクチンプログラムの策定・見直し等も有効な対策です。管轄のJA・経済連・くみあい飼料・県本部へご相談ください。
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