生産性向上のための技術紹介
肉質改善サプリメント「やわらか3Q」の黒毛和種繁殖経産牛に対する効果
2024.07
昨今、繁殖牛としての役目を終えた黒毛和種繁殖経産牛は、国内の限られた牛肉資源として認知されており、有効活用が求められています。繁殖経産牛は、適正かつ効率的な肥育を行うことにより、その肉をテーブルミートとして十分に利用できるポテンシャルを持っていると考えられています。今年4月、肉質改善サプリメント「やわらか3Q」が、株式会社科学飼料研究所から販売されました。本号では、黒毛和種繁殖経産牛に対する「やわらか3Q」の効果についてご紹介します。
笠間乳肉牛研究室
はじめに
黒毛和種繁殖経産牛は、肥育せずに出荷すると肉量が小さい、肉色が濃いなどの問題が生じることが知られています。経産牛を肥育すると①日増体量や枝肉重量が大きくなる②BMS No.が高まる③肉の色沢が改善される――などの正の影響が認められることが報告されています。本試験では、黒毛和種繁殖経産牛において、肥育に加えて、「やわらか3Q」に含有されている酸化型コエンザイムQ10(以下CoQ10)補給が生産性や肉質に及ぼす影響を調査しました。
材料および方法
約147カ月齢(平均産次9.2)の黒毛和種繁殖経産牛23頭を供試しました。平均産次、月齢、肥育およびCoQ10補給の有無で供試牛を4区(対照区・肥育区・CoQ10区・肥育CoQ10区)に割り当てました。CoQ10区と肥育CoQ10区には1,000 mg/日のCoQ10を朝夕にトップドレスで等分給与しました(表1)。
飼料は、配合飼料(CP:12.5%、TDN:73.5%)とフェスクストローを用いました。廃用牛として判断してから3週間の馴致後、表2に示した給与体系に準じて、6カ月間肥育後、出荷し、と畜しました。
表2 給与体系(▷▷▷Web限定公開)
結果
(1)1日平均増体量(表3)
3-4カ月後の1日平均増体量を除いたその他の期間の肥育区、肥育CoQ10区の1日平均増体量は、対照区、CoQ10区に比べ、それぞれ高くなりました。試験期間中の1日平均増体量も、肥育した2区は肥育しなかった2区に比べ高い結果でした。一方、対照区とCoQ10区との間、肥育区と肥育CoQ10区との間に差は認められませんでした。したがって、黒毛和種経産牛において、6カ月間の肥育は体重を増加させますが、CoQ10補給は体重に影響を及ぼしませんでした。
表3 1日平均増体重(▷▷▷Web限定公開)
(2)枝肉成績(表4)
出荷時体重、枝肉重量、ロース芯面積、バラの厚さ、皮下脂肪、BMS No.、締まりは肥育により大きくなり、BCS No.は肥育により小さくなりました。
肥育CoQ10区のBMS No.は肥育区に比べ大きい傾向にありましたが、対照区とCoQ区の間にBMS No.の差はありませんでした。また、BFS No.がCoQ10補給により改善しました。その他の枝肉形質にCoQ10補給の影響は認められませんでした。
(3)胸最長筋におけるせん断力価(図1)と加熱損失割合(図2)
胸最長筋におけるせん断力価および加熱損失割合は、肥育およびCoQ10補給により低下しました。牛肉のせん断力価は保水性に比例して低くなります。すなわち、加熱損失が多いと、保水性がなくなり肉は硬くなります(せん断力価は増加する)が、反対に加熱損失が少ないと、保水性が保たれ、肉はやわらかくなります(せん断力価は低下する)。したがって、肥育およびCoQ10補給は加熱調理中の肉の保水性を向上させ、せん断力価を低下させた可能性があります。
(4)嗜好型官能評価(図3)
本試験では、CoQ10区の牛のほうが対照区の牛に比べ、かみ切りやすいこと、咀嚼性に優れることが識別されました。また、肥育CoQ10区の牛のほうが肥育区の牛に比べ、かみ切りやすいこと、咀嚼性に優れること、ジューシーであることが識別されました。
以上より、黒毛和種繁殖経産牛に対するCoQ10補給は、枝肉成績におけるBMS No.やBFS No.、肉のやわらかさ(せん断力価、嗜好型官能評価)を改善する可能性が示されました。CoQ10を配合した「やわらか3Q」をぜひお試しください。他の黒毛和種繁殖経産牛の生産性改善策についても、『ちくさんクラブ21』2021年12月号でご紹介しているので、こちらもご一読ください。
参考となる記事 ちくさんクラブ21過去号から
他の黒毛和種繁殖経産牛の生産性改善策
『ちくさんクラブ21』2021年12月号
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