海外レポート デンマーク王国 Kingdom of Denmark
デンマークにおける養豚情勢とアニマルウェルフェアへの対応
2024.07
デンマークは1母豚当たりの離乳頭数が世界1位と高い繁殖成績を有する国で、アニマルウェルフェア(AW)への取り組みを積極的に実施しています。日本においてもWOAHコード(注)に基づく飼養管理指針が2023年に策定され、今後もAWへの関心は高まると考えられます。そこで、デンマークでの養豚情勢、AWへの対応状況や課題など、現地の農場などを訪問して情報収集を行いましたので、ご紹介します。
(注)国際獣疫事務局により策定された国際貿易、動物衛生措置及びアニマルウェルフェアに関する国際基準
①デンマークの養豚情勢
デンマークは日本と比較して人口や国土面積は少ないですが、母豚の飼養頭数や1戸当たりの平均母豚飼養頭数(頭/戸)は日本よりも多いです(表1)。
デンマークは国内で生産された豚の4割をドイツ、ポーランドなどの周辺国に生体30㎏で輸出しています。残りは、90%を精肉・加工品として約100カ国に輸出し、10%をデンマーク国内で消費しています(図)。
また、17年から22年の5年間でデンマークの1母豚当たりの年間離乳頭数は平均33・6頭から34・1頭に増加しており、農家戸数は日本と同様に減少していますが、母豚のパフォーマンスの改善などにより、生産・飼養頭数は増加しています。
②AWの取り組み
デンマークでは、妊娠舎だけでなく、交配舎、分娩舎でのフリーストール化が実施されています。そこで、各豚舎におけるAWの取り組みをご紹介します。
ア.妊娠舎(写真1)
デンマークを含むEUでは交配4週間後から妊娠豚の群飼育が義務付けられています。その他、デンマーク独自に交配4週間後から分娩1週間前まで藁の常備が義務化されています。
イ.分娩舎(写真2)
授乳期の母豚では、①Freedom Farrowing、②Sow Welfare and Piglet protection(SWAP)の二つのフリーストール方式が採用されています(表2)。②のメリットとして、分娩後の3日間は柵に母豚を入れることで母豚へのストレスを最小限にし、哺乳子豚により安全に哺乳できることがあげられます。また、訪問した農場では床の30%がコンクリート、70%が部分スノコになっており、子豚の安全に配慮されています。
ウ.交配舎(写真3)
交配舎は、離乳後から妊娠鑑定までの4週間、繁殖豚を交配、飼育する場所です。デンマークでは、交配舎での群飼育が15年以降に建設された施設で義務付けられています。ただし、発情期間中では最大3日間、交配のために柵に入れることが可能です。また、飼料摂食時以外はフリーストール化されており、床全面に藁が敷かれています。
エ.離乳子豚舎(写真4)
子豚の歩行時の安全性を考慮し、床は全面スノコではなく、部分スノコが採用されているほか、体重20㎏以上の子豚、繁殖豚、肥育豚では豚の体温コントロールのためにスプリンクラーの設置が義務化されています。また、子豚が遊ぶための木の角材も設置されていました。
オ.病畜
病畜が快適に過ごせるように温度を管理し、床にはラバーマットや藁を敷き詰め、十分なスペースが確保されています。
カ.断尾、去勢
デンマークでは断尾をしていない豚が23年時点で50万頭ほど存在し、27年には400万頭まで増加させることを目標としています。去勢では、未去勢の雄豚が22年時点で58万頭となっており、さらなる増加を目指しています。免疫学的な去勢方法のほかに品種改良による肉の雄臭低減に取り組んでいます。
③AWの課題
デンマークでのAWの取り組みをお伝えしましたが、課題も残っています。母豚のフリーストール化については、AW対応設備の新設だけでは効果が得られず、従業員のトレーニング、豚舎設備や設計、品種などの複数の条件が揃うことで初めて実現が可能です。特に、母豚の性格(母性本能に優れる)が重要で、母豚の選抜ができていない農場で設備を導入したところ、子豚の事故率や圧死が増加したとのことです。
また、断尾や去勢の未実施を政府当局は推進するものの、生産現場での課題は依然として残っており、訪問した農場についても実施していました。日本においてもAWを推進する上で、生産現場での課題や消費者の動向を注視し、進める必要があると考えます。
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