JA全農 家畜衛生研究所
近年の鶏伝染性気管支炎(IB)の流行状況と対策について
2024.07
1951年に国内で初めて鶏伝染性気管支炎(IB)が確認され、現在では国内のほとんど全ての養鶏場にIBウイルス(以下、IBV)が侵潤していると考えられています。ワクチンの普及に伴い本疾病発生の届出数は減少していますが、多様な抗原性の野外株の存在や、新たな変異株の出現・侵入により、いまだに養鶏産業に大きな損失をもたらす重要疾病です。今回は近年のIBの国内流行状況と対策について紹介します。
1 IBの特徴と基本的な対策
IBはコロナウイルス科のIBVによる急性感染症(届出伝染病に指定)で、ウイルス株の病原性や感染時期によりさまざまな症状が現れます(表1、写真1、2)。
ポイント 飼養衛生管理基準の徹底とワクチンの使用
IB対策の基本は、飼養衛生管理基準の徹底とワクチンの使用です(表2)。IBVの野外株には多くの変異株が存在するため、各変異株に対応するワクチンを選択しなければ十分な防御効果は期待できません。近年では、自農場に浸潤する野外株と同じ遺伝子型のワクチンを接種し、さらに採卵鶏や種鶏では育雛・育成期に異なる遺伝子型のワクチンを複数接種する方法が一般的です。IBが疑われる臨床症状や生産成績(産卵率や育成率等)の低下がみられる鶏群から野外株が検出される場合は、遺伝子型別検査結果に基づいてワクチンプログラムの修正も検討する必要があります。
2 近年の国内流行株調査
IBVは感染後数週間、ふん便中に排泄されるため、ふん便を用いた検査により農場のIBVの感染状況をモニタリングできます。2022年11月~2023年1月に全国の採卵養鶏場のふん便(1検体/1農場)からIBV野外株の遺伝子型を調査した結果、122農場中44農場で野外株が検出され、全国的にJP-Ⅰ型とJP-Ⅲ型の検出頻度が高いことが判明しました(図1)。
また、日本周辺国や欧州で近年最も流行し、現行のシークエンス検査ではJP-Ⅲ型に分類される新しい変異株「QX-like」型が国内侵入し、すでに全国的に広がっていることも分かりました。海外の「QX-like」型による被害事例では、従来のIBと同様に呼吸器症状、産卵障害および腎炎など多様な症状が報告されています。「QX-like」型には市販JP-Ⅲ型ワクチンが有効であると報告されています。
3 ケーススタディ(事例)
野外事例
症状
自家育雛の採卵鶏農場で、育雛期の死亡増加が3ロットで続いた。最も大きい被害は約1.5万羽の鶏群で、2週齢ごろから1日当たり20羽前後(最大38羽/日)が死亡。10日間で淘汰を合わせ、鶏群の約2%相当の約300羽が死亡した。死亡鶏の剖検所見では、気管の充血、腎臓の腫大と退色および大理石様紋様を高率に観察した(写真3)。
クリニック検査結果:IBVの遺伝子検査、遺伝子型を特定するシークエンス検査
腎臓からJP-Ⅰ型の野外株を検出した。
対策
- 次ロットでの再発を防ごうと、ワクチンプログラムを見直した。
- 鶏舎へのウイルスの侵入を防ぐため、アウト後の洗浄消毒の徹底や導入前鶏舎の拭き取り検査、空間消毒などを実施。
IB対策を強化し、経過観察中。
4 IBVの遺伝子型別検査による鶏群のモニタリング
JA全農家畜衛生研究所クリニックセンターでは、IBVの抗体検査により鶏群の感染状況やワクチン接種状況の把握、臓器やふん便などからのIBV遺伝子検査、遺伝子型を特定するシークエンス検査を実施しています。
効果的なIB対策には、自農場に浸潤する野外株の遺伝子型の定期的なモニタリングと、事故発生時の早期原因究明による素早いワクチンプログラムの修正、飼養衛生管理基準が守られているかの再確認が重要です。IBは同一農場でも鶏群(鶏舎)によって異なる野外株が侵入し、その野外株も月単位で変化した事例も確認されており、常にウイルスの侵入リスクがあります。全農クリニックでは各種衛生対策に取り組んでおりますので、管轄のJA・経済連・くみあい飼料・県本部にご相談ください。
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