Dr.ジーアのMyカルテ JA全農 家畜衛生研究所
豚呼吸器複合病(PRDC)と経済損失について
2024.10
豚呼吸器複合病(Porcine Respiratory Disease Complex 以下PRDC)は豚の環境変化等に伴うストレスや、豚の免疫力の低下を背景として、複数のウイルスや細菌が感染することで発症します。今回は、PRDCの概要とその経済損失について説明します。
1 PRDCの概要
(1)PRDCの原因
ア 主なウイルス
豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス(PRRSV)、豚サーコウイルス2型(PCV2)、豚インフルエンザウイルス(SIV)
イ 主な細菌
マイコプラズマ・ハイオニューモニエ(Mycoplasma hyopneumoniae)、アクチノバシラス・プルロニューモニエ(Actinobacillus pleuropneumoniae:APP)、レンサ球菌(Streptococcus suis)、パスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida)、ヘモフィルス・パラスイス(Haemophilus parasuis)
ウ 環境要因
ストレス、飼育環境の悪化、不適切な換気、密集した飼育状態など
(2)症状
急性例では死亡することもあり、慢性例では咳、呼吸困難、食欲不振、発熱、鼻水などがあります。慢性例でも豚の成長を遅らせ、生産効率を低下させます。
PRDCを発症した豚の肺では複数の病変が認められることが多くあります(写真)。
PRDCによる事故豚の肺(左)は正常肺(右)と比べて暗赤色に変色した病変部が認められます。病変部は硬く、APPが分離されました。
2 PRDCによる農場での経済的被害
PRDCは豚の状態を悪化させ、経済的にも大きな影響を及ぼします。その主な理由と影響について説明します。
(1)成長の遅れ
病気にかかった豚は健常豚よりも成長が遅くなります。出荷するまでの期間が長くなるため、その間の飼育コストが増えます。
(2)死亡率の増加
PRDCにより死亡する豚が増えると、出荷できる豚が減少して売り上げが落ちます。また、死亡豚の処理や廃棄にもコストがかかります。
(3)衛生費の増加
病気を治療するための薬剤や獣医師の診療費等が必要です。これらのコストは決して安くはなく、特に大規模な感染が発生した場合には経済的負担も大きくなります。
(4)肉質の低下
病気にかかった豚の肉質は通常よりも低下するとの報告もあります。そのため、販売価格が下がり、利益が減少する恐れがあります。
(5)生産効率の低下
PRDCを発症している農場では発育がバラツキ、豚舎の回転が悪くなります。また、農場としての飼料効率も悪化するなど、農場全体で被害が出ます。
3 経済損失の具体例
PRDCで複数の病原体が感染したことによる経済損失について米国での調査結果を紹介します。調査では豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)、豚インフルエンザ、マイコプラズマの3病原体の感染状況に応じて肉豚1頭当たりの損失額を算出しました(図)。
4 予防と適切な管理
PRDC対策には予防と適切な管理が非常に重要です。主な対策を紹介します。
(1)ワクチン接種
マイコプラズマ、サーコ等のワクチンが応用できる病気に対しては、ワクチンを使うことで被害の軽減が期待されます。
(2)飼育環境の改善
適切な換気や清潔な環境、適度な飼養密度を保つことで、発症を抑えられます。
(3)ストレスの低下
豚に過度なストレスをかけないようにすることが重要です。ストレスは免疫力を低下させ、発症のリスクを高めます。
(4)早期発見と迅速な治療
健康状態の悪い豚の早期発見と迅速な治療が、被害を最小限に抑えるために重要です。
5 検査
農場にどのような病原体が侵入しているかを把握しておくことは、予防の上で重要です。現在、PRDCに関与する病原体の多くは、農場への侵入の有無を検査によって把握することが可能です。また、年2回以上定期的に母豚から肉豚までを検査することで、農場内の感染状況を把握できます。
6 まとめ
PRDCは豚の健康と経営に大きな影響を与えます。効果的な予防と適切な管理が、経済損失を減らし、持続可能な養豚場を維持するために不可欠です。検査には費用がかかりますが、自身の農場内にどの病原体が侵入しているか感染状況を知っておくことが重要です。適切な衛生プログラムを作成でき、ワクチンや抗生物質の不必要な使用を低減することにもつながり、最終的には経営に好影響を与えることができます。
検査等をご希望される場合は、管轄のJAや経済連、JA全農くみあい飼料株式会社、JA全農県本部を通じて全農クリニックへ相談ください。
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