高知県高知市 川渕牧場
四国トップクラスの生乳量を誇るメガファーム
2024.10
有限会社 川渕牧場(Kawabuchi farm)
代表取締役:川渕容史さん
本社:高知県高知市針木西1323
従業員数:20人
飼養頭数:乾乳牛を含めた経産牛が約650頭。育成牛は北海道の取引先へ年間120頭ほどを預託
年間出荷乳量:4500t
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高知県で生産される生乳のおよそ4分の1を出荷する有限会社川渕牧場。1972年に乳牛7頭で創業し、半世紀経たずに四国でトップクラスの年間出荷乳量4500tを誇るメガファームへと成長。ロボット搾乳機やストレスの少ない牛舎をいち早く導入し、規模を拡大した。持続可能な開発目標(SDGs)という考え方が普及する以前からエコフィード(食品残さから製造された飼料)や環境対策に取り組んできた同社。親子3代で運営する牧場は、常に時代の先を見据えている。
乳量・乳質に影響するストレスを可能な限り排除した医食住を提供
(有)川渕牧場は、高知市の中心部から車でわずか15分ほど離れた中山間地域にある。1972年、梨農家の次男として生まれた取締役会長の川渕正明(まさあき)さん(72)が、20歳の時に乳牛7頭から始めた。牧場立ち上げの5年後に60頭、1993年には120頭まで搾乳頭数を増やした。2005年には四国で唯一となる32枠のロータリーパーラーとともに480頭規模のフリーバーン牛舎を新築。2024年春からは、4台のロボット搾乳機を備えた240頭規模の新築フリーストール牛舎での生産も始まっている。
現在の飼養頭数は乾乳牛を含めた経産牛が約650頭。育成牛は北海道の取引先へ年間120頭ほど預託している。基本的には自家産での増頭に努めているが、さらに初妊牛を150頭ほど導入する計画があるという。
安定収入と規模拡大が期待できる畜産業
正明さんは「酪農家を志したのは果樹栽培よりも安定した収入が期待でき、施設を増やすことで規模拡大ができると判断したため」と話す。「果樹栽培と違って従業員を通年雇用できる点も魅力を感じた」と説明する。さらに、土地がなければ規模拡大はできないとの考えから、何人もの地権者と直接交渉し、所有地を少しずつ広げていった。飼養の環境面からも牧場敷地は広い方が良く、施設の大型化を推し進めてきた。
創業当時は4haの借地から始まったが、現在は11 haの土地を所有する。購入した土地に牛舎などを建てる際は、正明さん自らが重機を操って造成してきた。建築費を抑える目的もあるが、「牧場の将来像を頭に描きながら土を掘り返すのが好きだから」という。2024年に完成したフリーストール牛舎の建設地も自ら汗を流して造成した。
5年前に取締役会長へ退き、長男の容史(まさふみ)さん(47)に経営を委ねた。正明さんは「これまで高知県でナンバーワンの牛飼いになることを目標に働いてきたが、ロータリーパーラーの導入を決めたとき、つなぎ牛舎の経験しかない私がやるのではなく、息子に牧場を任せようと思った」と当時を振り返る。ただ、今も重機による造成作業は正明さんが担当する。
乳牛は大切なお客様 快適な空間づくりを優先
現在の運営方針である「乳牛は家族の一員ではなく、大切なお客様」という考えは、容史さんが酪農について学ぶ過程で得た気付きを言語化したものだ。
「私たちの経営は牛からいただいた生乳で成り立っており、私たちが何かを作り出しているわけではない」と、容史さんは断言する。その上で、「私たちはただのサービス業で、お客様(乳牛)に快適な医食住のサービスを提供するのは当たり前。このように考えると、我々が知識や技術を磨く必要が自然と理解できる」とし、従業員教育としても分かりやすいと胸を張る。
その運営方針通り、乳牛が快適に過ごせる空間づくりを優先してきた。24年稼働の搾乳ロボット牛舎は、設計の段階で快適性を重視し、暑い夏でも過ごしやすい環境を実現している。
飼料の4割がエコフィード
同社は、牧場設立時から積極的にエコフィードを取り入れてきた。耕作地を持たずに自給飼料を一切栽培していない同社にとって、安定的に入手できるエコフィードの存在は経営的にも重要な位置付けにある。正明さんは、食品を扱う企業や工場などに電話をかけて地道な交渉を続けてきた経験から、「職業別電話帳が私の飼料畑だった」と打ち明ける。
その結果、取引先は少しずつ増えていき、現在は飼料全体の4割をエコフィードが占めるほどになった。高知市内の工場から発生する規格外のポップコーンは量や品質に優れ、飼料として申し分ないという。他に、しょうゆ、みかんジュースなどの搾りかす、おからなど、使用する品目は多岐にわたる。搾りかすは取引先がサイレージ化することで、年間を通して安定した品質の飼料を給与することが可能になった。
現在は、これらのエコフィードと輸入乾牧草、配合飼料を組み合わせたメニューを採用している。JA全農くみあい飼料㈱の担当者は「私たちの飼料は全体を整える背骨のような存在。だからこそ品質を変えないことに気を付けている」と話す。
環境負荷低減の取り組み
(有)川渕牧場は23年7月から施設内浄水場を稼働する。補助金に頼らず、独自に建設した。排水処理の前段階として、糞便が混ざった施設内の排水を機械で搾り、繊維質と水に分離する。繊維混じりの排せつ物は堆肥化し、近隣の農家や住民に無料で配っている。一方、分離した水は浄化槽でろ過し、きれいにした状態で施設外へ排水する。ろ過工程を重ねることで、茶色く濁った水も透明になり、臭いも気にならないレベルまで浄水できるという。
選ばれる職場環境づくり
2023年には容史さんの長男である貴矢(たかや)さん(25)が就農。正明さんは孫と働けることを喜んだ。貴矢さんは、搾乳ロボット牛舎の管理を担当する。牛にとって快適な環境をつくると同時に、将来的には従業員に担当してもらえるようにオペレーションの最適化に取り組んでいる。
貴矢さんは「牛飼いの経験は未熟だが、この牧場を就職先に選んでもらえるような環境にしていくのが目標。今は正直、若い人たちの選択肢に一次産業は入っていない。それを変えたい。ロボットは新しい酪農のイメージをつくるチャンスだと思う」と意気込みを語る。また、「現在働いている従業員20人の雇用環境をさらに良くしていきたい」と話す。牛だけでなく従業員の職場環境を、誰もがうらやむくらい向上させることが、同社が今後も躍進するために必要だと考えている。
正明さんから始まった酪農への道は、息子の容史さん、孫の貴矢さんに受け継がれた。(有)川渕牧場の親子3代の挑戦はこれからも続く。
運営方針を実現するための設備、取り組み(一部抜粋)
排水の浄化
エコフィード
(左)工場の製品検査ではねられた規格外のポップコーン。塩などが添加される前の状態のものを引き取っていて、コーンの皮がないため消化されやすい。(右)しょうゆの製造工程で発生する搾りかす
ロボット給餌機
ロータリーパーラー
ロボット搾乳機
ロボット搾乳機を備えたフリーストール牛舎。各所に監視カメラを設置し、モニターでチェックする