佐賀県唐津市 古河畜産
作業効率を高めた 繁殖牛生産

2025.01

古河夫妻と従業員の大野さん(右)

古河畜産(Furukawa chikusan)
代表者:古河寛明(ふるかわ・のりあき)さん
住所:佐賀県唐津市肥前町上ケ倉433
従業員数:1人
飼養頭数:黒毛和種99頭、交雑種(F1)8頭

 全国有数の銘柄牛「佐賀牛」を生産する佐賀県。唐津市の繁殖農家、古河畜産ではICT機器やミキサー車によるTMR(混合飼料)給餌を取り入れ、省力化した経営に力を入れる。代表の古河寛明さん(42)を中心に家族3人と従業員1人で、育成牛を含めた繁殖母牛の黒毛和種99頭と交雑種(F1)を8頭飼養。限られた人員の中で、作業効率を重視する。子牛出荷の他、JAと連携した受精卵の販売も経営の柱に据え、父から経営を委譲されたあとも規模を拡大してきた。

省力化経営でもしっかり手をかけてくれてるよ!

地域の模範となる畜産経営をめざして

 唐津市の中心部から約20㎞、伊万里湾を望む中山間地に牛舎を構える古河畜産。迎えてくれた代表の古河寛明さんは、繁殖農家として黒毛和種を中心に107頭を飼養する。2014年に就農した後、父から経営を受け継ぎ飼養頭数を増やしてきた。古河さんは「頭数を増やしても効率的に毎日の作業を進め、仕事だけでなく家族の行事などの生活面も大切にする経営をしたい、と思って取り組んできました」と笑顔で話す。

ICT機器4種を駆使 「誰でもわかる」を重視

 古河畜産では、分娩監視・発情発見機器の「モバイル牛温恵(ぎゅうおんけい)」、クラウドタグで24時間子牛の動きをモニタリングする「アットモーメント」、首につけたセンサーで母牛の活動状況を把握する「ファームノートカラー」、牛舎の様子を遠隔で見守る「監視カメラ」の4種を活用する。一般的な経営に比べ利用する機器がやや多い印象だが、「限られた労働力で100頭近くの牛を見るには欠かせないもの」と古河さん。各ICT機器は作業者のスマートフォンと連携させ、通知や閲覧ができるようにしている。重視しているのは①データを見れば、牛の異常などが誰でもわかること②分娩兆候などを早めに把握し作業の段取りを立てること――。

 牛舎の見回りに多くの時間を割かず、妻の桃子さんや従業員も牛の体調変化にすぐ気付く体制をつくって、作業の効率化や事故率の低減につなげる。子牛の風邪や下痢、母牛の難産など「人が気付けば防げる病気や事故はできるだけ防ぎたい」という思いから、徐々に利用する機器を増やしてきた。監視カメラの映像は自宅に設置したモニターで帰宅後も映像を常に確認。古河さんは「夜間でもすぐに対応して、獣医への連絡もスムーズになった」と話す。

TMRミキサー車の導入で給餌時間が4分の1に

 古河畜産は19年にTMRミキサー車を導入し、給餌の時間短縮を実現した。農場には3棟の牛舎がある。ミキサー車の導入前は、牧草をフォークで崩すといった作業のほとんどを人力でこなし、1棟ずつ給餌していた。朝夕2回でそれぞれ2時間、給餌に1日4時間かかっていたという。この時間をなんとか短縮して他の作業に充てたいという思いから、ミキサー車を購入。現在は1日1回の給餌で済むように餌の内容を見直し、TMRの製造から各牛舎に配り終えるまで1時間で終わらせている。

 TMRの内容は、稲わらと牧草、ヘイキューブ、粕類を入れて加水したもの。母牛には1頭当たり1日10~12kgを食べさせている。TMRを積んだミキサー車で通路に入り、牛ごとに給餌量を調整しながら配る。古河さんは「作業時間が4分の1になったことで、自給している牧草の管理や、子どもの習い事の送り迎えなどに回せる時間ができた。餌の質と量が安定したことで、繁殖成績や受精卵の販売成績が上がるというメリットもあった」と振り返る。

 自給飼料の生産でも省力化を実践。自給牧草はイタリアンライグラスやえん麦、ソルゴーが中心で、稲わらの収集も行う。トラクターを複数台所有し、ロールベーラーや牧草反転機といったそれぞれのアタッチメントを付けた状態で保有。アタッチメントの付け替え作業に時間を割かずに済み、作業に合わせてトラクターを乗り換えて時間を短縮している。

古河 寛明さん
「就農したいと考える若者が増えるように、
地域の模範となるような畜産経営を目指します」
JAからつ畜産部の勝山主任(中央)とJA全農くみあい飼料㈱の坂本担当(右)に、
TMRとモネンシン給与試験について状況を説明する古河さん

和牛受精卵を販売経営に生かす

 古河畜産は、和牛子牛の販売に加え、和牛受精卵の販売事業も経営の柱に据える。JA全農と連携し、15年から受精卵の採卵・販売を始めた。取り組みの背景は、当時受精卵が不足していたことと、地域に優秀な受精卵を供給し、もと牛の頭数を確保することだったという。

 現在は年5回、JA全農が採卵し、1頭当たり1回10個ほどの受精卵を販売している。農場の母牛の分娩間隔は平均で415日程度だが、分娩後80~120日で受精卵を採卵するサイクルで運用し収益確保に努める。

 古河さんは受精卵の血統選びにもこだわる。母牛が過去に生産した受精卵で実績が良い血統や、直近の共励会で好成績だった血統を選択する。「購買者のニーズに応えた受精卵を販売したい」と古河さん。子牛価格の値下がりに伴って受精卵の販売価格もやや低下しているものの、受精卵販売は現在も収益の半分近くを支えているという。

子牛へのモネンシン給与に挑戦

 古河さんは23年4月から、JA全農くみあい飼料㈱と子牛へのモネンシン試験給与を始めた。子牛へのモネンシン給与は、全国的に普及しているものの佐賀県では利用者が少なかった。同社担当者は「他県と足並みをそろえる形で、給与の取り組みを始めた。発育が良好な子牛生産に期待する声がある」と説明する。

 古河畜産では給与試験を経て、24年9月から本格給与を開始。モネンシンを含む子牛用配合飼料は、子牛が生まれてから出荷するまでの9、10カ月齢まで与えている。古河さんは「給与を始めてから生後3カ月までの治療回数が減った実感がある。子牛は1日2回の給餌を行っているが、餌の食い込みがよく、粗飼料もしっかり食べるようになり強い胃づくりができている」と実感している。

敷料を3層に臭いの出にくい工夫

 農場の特徴に、牛舎の清潔さと臭いの少なさがある。給餌する際、毎日通路をミキサー車が通ることもあって、通路を含む牛舎内にはほとんど物が置かれていない。また牛舎の中とは思えないほど臭いが少ないという。古河畜産の牛舎は牛床をプール状に80cmほど掘り下げて設計している。下からもみ殻、エリンギ廃菌床とおがくずを混ぜたもの、戻し堆肥の順に敷いている。古河さんは「3つの層を重ね、ふん尿の分解速度を高め、臭いの発生を抑えている」と説明する。

 古河さんは「地域の模範となるような経営をして、これから就農したいと考える若者や担い手の意欲が湧くような畜産農家になりたい」と目標を話す。後継者の確保ができれば、繁殖肥育一貫経営への展開も視野に入れられる。「子牛の価格を含め、畜産には良いときも厳しいときもある。地域の農家で励まし合い、苦しいときも楽しいときも共に分かち合いながら、笑って農業ができる環境にしていきたい」と語った。

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