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鶏の脂肪肝対策 ―飼料の栄養バランスの重要性―
2025.01
鶏も人間と同じように脂肪肝になることがあります。脂肪肝が進むと、産卵成績の低下を引き起こし、重度の場合には脂肪肝出血症候群という病態をとり、脂肪が沈着してもろくなった肝臓組織から出血を起こして死亡してしまいます。鶏の脂肪肝は人間と同様に栄養バランスの悪い食餌によっても引き起こされるため、適切な栄養バランスの飼料を与えることで発生を抑えることができます。そこで今回は、飼料中に含まれる栄養素と脂肪肝の関係について紹介します。
養鶏研究室
鶏の脂肪肝
鶏は脂質合成の90%を肝臓で行っており、脂質代謝における肝臓の重要性が非常に高い生き物です。特に、卵黄には多くの脂質が含まれているため、卵を多く産む鶏は1日あたり約6gの脂質を卵に供給する必要があります。そのため、産卵鶏の肝臓は常に負担がかかっている状態であり、脂肪肝になりやすくなっています。
また、国内で主流であるケージ飼育では、鶏の運動量が少ないため必要なエネルギーが少なくなり、結果として肝臓に脂肪が蓄積しやすいことが報告されています。脂肪肝になった肝臓は文字通り脂肪含量が多くなるため肝臓の色が黄色くなり、また柔らかいため損傷しやすくなってしまいます。海外の統計によると、ケージ飼育の鶏舎では、脂肪肝出血症候群によるへい死が鶏の死因の約7割を占めており(図1)、生産性の向上のためにも鶏の脂肪肝対策は重要です。
脂肪肝対策
脂肪肝出血症候群は代謝性疾患の一種であり、人間と同じように食餌中の栄養バランスの改善により脂肪肝の発生を抑えることができます。そこで今回は、飼料の栄養バランス改善による脂肪肝対策を2つ紹介します。
❶タンパク質とエネルギーバランスの改善
飼料中のタンパク質と代謝エネルギーの比率を3段階で調節した飼料(表1)を鶏に与え、肝臓への影響を確認すると、高タンパク質低エネルギー飼料では正常な肝臓が多く、低タンパク質高エネルギーの飼料ほど脂肪肝の鶏の割合は増加する結果となりました(図2、図3)。また、脂肪肝羽数の増加に伴い、肝臓中脂質の平均含量も増加しました(図4)。
そのため、脂肪肝の進行を抑制するためには、飼料中のエネルギー含量を過度に高めすぎないことはもちろん、タンパク質を適切に給与し産卵に必要なアミノ酸を十分に供給することが重要です。
❷含硫アミノ酸バランスの改善
含硫アミノ酸は構造中に硫黄原子が含まれるアミノ酸であり、人間では髪の毛や爪の主成分であるケラチンの合成に関与しています。鶏では羽毛や爪の他にも、卵黄の合成にも大きく関与しており、含硫アミノ酸が不足することで鶏の生育に問題が生じることが知られています。
含硫アミノ酸の比率が高い飼料(高含硫アミノ酸飼料)と低い飼料(低含硫アミノ酸飼料)(表2)を鶏に与え肝臓への影響を確認すると、高含硫アミノ酸飼料で脂肪肝を抑制する結果となりました(図5)。同様に、肝臓中脂質の平均含量は高含硫アミノ酸飼料で低下しました(図6)。
そのため、飼料中の含硫アミノ酸量を高めることは脂肪肝対策として有効です。しかし、含硫アミノ酸添加は平均卵重や飼料コストの増加につながるため、脂肪肝と卵重、そして飼料コストとのバランスを考え添加することが重要です。
最後に
このように、栄養バランスの良い飼料により採卵鶏の脂肪肝の発症リスクを低減することが可能です。そして、脂肪肝の発症を減らすことは、生産性の向上や鶏の健康状態の改善につながります。鶏の必要とする栄養素を理解し適切な量を給餌することで、鶏にも人にも快適な農場を目指していきましょう。
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