牛肉輸出拡大とインバウンド需要への対応

2025.01

 JA全農グループは食肉消費の出口戦略の一つとして、輸出拡大とインバウンド需要への対応が重要だと考えています。なかでも、近年生産量が増えている和牛については、海外でも高評価を得ており、より効果的な消費喚起策が求められます。今回は、輸出とインバウンドの現状や消費拡大の取り組み例を紹介します。

食肉の需給状況

 日本の食肉消費量は年々増加傾向にありますが、物価高による消費者の生活防衛意識の高まりなどから割安な鶏肉や豚肉へ需要がシフトし、牛肉の消費量は減少しています。

 一方で輸入を含めた牛肉全般の供給量は減少しましたが、畜産クラスター事業などが奏功し、和牛生産量は2017年度以降回復しました。23年度の出荷頭数は約10年ぶりに50万頭を超えました。さらに今後数年間は同水準で推移していくと予想され、需給緩和による相場への影響が懸念されます。

出口戦略としての牛肉輸出拡大

牛肉輸出の概要

 国産牛肉、特に和牛の海外マーケットは拡大しており、食肉消費の出口戦略として輸出は重要な位置付けとなります。
 23年の牛肉輸出量は過去最高となる578億円(8858t)に達し、18年からわずか5年で2倍以上の増加となりました(図1)。輸出の大半は和牛です。国・地域別では、香港、台湾、米国の上位3カ国が約半数以上を占めている他、欧州やシンガポール、UAEなど世界中から高い評価を受けています(図2)。しかし、日本の牛肉生産量に占める輸出量は約2.5%程度と、依然として国産牛肉需要は国内向けがメインです。輸出拡大には、新たな国・地域の市場開拓が一層求められています。

 日本政府は30年までに農林水産物・食品輸出額5兆円、牛肉については輸出額3600億円を目指す長期目標を設定しました。安定した生産体制を整えるため、輸出相手国が要求する衛生基準に適合した認定食肉処理施設の拡大や、生産から輸出まで一貫して促進する「コンソーシアム」事業を構築するなど、積極的な支援策を講じてきました。輸出認定食肉処理施設の維持にはソフトとハードの両面で乗り越えなくてはならない課題が多いですが、国内の需給緩和を補完するためにも輸出はなくてはならない戦略の一つと言えます。

JA全農グループの輸出の取り組み

写真1 セミナーで和牛の基礎知識を学ぶ海外バイヤー
写真2 全国食肉学校にて和牛のカット方法を学ぶ海外バイヤー

 これらを背景に、JA全農グループも積極的に輸出に取り組み、従来の主要国のみならず、その他のアジア諸国やハラル対応が必要となる中東にもアプローチしています。輸出実務を担うJA全農インターナショナル株式会社は、海外拠点の営業力強化に加え、補助事業を活用した現地プロモーションや顧客の産地招聘も行っています。
 招聘事業では、全国食肉学校とタイアップし、海外の顧客向けに和牛の基礎知識や調理方法を学ぶことができる和牛セミナーを定期的に開いています(写真1、2)。同社グループの24年度上期における牛肉輸出実績は、前年同期比を上回るペースで推移。今後も営業やさまざまな活動を通じて「和牛ファンづくり」を強化し、市場ニーズの多様化に対応することで、さらなる輸出拡大を図っていきます。

インバウンド需要への対応

インバウンド需要の重要性とインバウンド数の推移

 輸出に加え、インバウンド需要も和牛の新たな市場として注目されています。日本政府観光局(JNTO)によると、24年1~9月のインバウンド推計値が2688万人に上り、前年の年間累計約2500万人を既に上回るペースで推移しています。来年以降もインバウンドは増えると見られ、インバウンド市場は今後も活況すると予想されています。

アンケート調査の分析とプロモーション

 JNTOが24年初めに実施したインバウンドに関する消費動向調査では、回答者の約8割が日本食を食べることを期待し、かつ肉料理に最も興味を示していることが分かりました。
 インバウンドの約7割はアジア圏からとされ、和牛への理解や知識がある旅行者が多いと考えられます。さらに、アジア圏は旅行の前「旅マエ」に計画を立て、欧米圏は旅行中に行動を決める「旅ナカ」の割合が多い傾向があります。観光客向けの予約サイトや情報サイトとの連携など、ターゲットの行動特性を捉えたプロモーションを仕掛けることで、より効果的な集客と消費につなげることが可能となります。

まとめ

 国内の牛肉需給情勢が厳しい中、拡大する海外需要の獲得やインバウンドへの対応は牛肉消費拡大のための重要な戦略となります。JA全農グループは、市場ニーズをくみ取り、ターゲット層を意識した販売促進を行うことで、和牛を中心とした国産牛の輸出拡大を進めていきます。

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